週末に本気を出す療法士

自分の目に映る「リハビリ難民」を西洋と東洋、双方向から診る療法士。セミナー寅丸塾を不定期で開催しながら、普段は家でも職場でも子どもに振り回さる会社員。

小胸筋についての考察

今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。

寅丸塾の管理人です。

 

広島県が急に政府の都合で危険地帯認定された余波で、セミナーが一回休みを食らって地味に凹んでいます。

が、これを期に色々と準備の必要性を考えさせられました。

 

さて、今日の記事は今日のセミナーで伝えるはずだった内容になります。

 

前回の内容はコチラ↓

toratezza0316.hatenablog.com

 

 

 

 

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小胸筋とは?

 

自分の職業柄なのか、何度もこのブログに登場する小胸筋。

※多分、好きな筋肉を1つ挙げろと言われたらこれを選ぶでしょう。

 

「大胸筋」が有名過ぎて、そんな筋肉あるの?

って思う人も結構いるはず。

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小胸筋は肋骨と肩甲骨を繋ぐインナーマッスルで、

教科書的な言葉を借りれば

「肩甲骨を下に引き下げる作用」

「第3~5肋骨を引き上げる作用」

があります。

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私に限らず多くの療法士はこの基本情報を学生の時に機械的に覚えた(一時的に?)ものですが、

おそらくこの文面だけでは「小胸筋」の重要性は伝わりません。

 

 

呼吸に必要な小胸筋

 

もう少し掘り下げて考えます。

 

筋肉の付着部が肋骨と肩甲骨なので、

肋骨の動きと肩甲骨の動きを制御してそうなことは想像できます。

 

「肩で息をする」

という表現からも分かる通り、

人間は運動時など努力呼吸をするときに少しでも多くの酸素を取り入れるため、

普段は横隔膜メインでやっている呼吸を肩に近いエリアまで拡大させて「胸郭」全体を動かそうとします。

 

これを胸式呼吸と呼びますが、

胸郭の中にある肺を広げるために肋骨は回転して胸腔自体を広げるような動きをします。

このときに上側の肋骨をさらに上方へ引っ張るのを助ける存在が「小胸筋」です。

 

 

 

引っ張るために必要な要素

 

ただし、

考慮しなければならないことがあります。

 

肋骨と肩甲骨を繋げた状態で「どちらかを引っ張る」ということは、「どちらかが安定」し「どちらかが柔軟」であることが絶対に必要です。

なぜなら、

軸になる側が不安定では引っ張ろうとしても力が伝わりません。

 

逆に、

軸になる側と引っ張られる側が安定しすぎている場合、

つまり肩甲骨も肋骨も硬くなってしまって動かせないような状態だと、

引っ張ろうとしても遊びがないため2点の距離が変わらない

という事態が生じます。

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この原則的な考え方でクライアントの問題を診ていくと、

たとえば重症の肩関節周囲炎のような、所謂フローズンショルダー(凍結肩)の患者は肩甲骨も肋骨もビクともしません。

肩だけに問題は留まらず、体幹が完全に固まった状態になり「振り向く」様な動きすら身体全体で方向転換しないと後を向けない

 

このような患者に遭遇したことのないセラピストはおそらくいません。

 

それくらい、

臨床ではガチガチに身体を固めた患者に遭遇することは多いです。

 

 

不安定な身体は安定を求める

 

そして、

「不安定」なために引っ張る力が伝わらないという状態になると、

人間の防衛機能の働きによって代償的にどこかを安定させようとします

 

 

先日、ある若手セラピスト(有望株)からこんな相談を受けました。

 

足首を損傷した患者の術後リハについて、

すでに退院し外来通院できるレベルだが中々痛みが緩和しない、という話。

 

足の細かい解剖学の話は今は置いといて、

足首という荷重のかかる部位を損傷することで、人間はその不安定な足首に荷重をかけたくないという心理が働きます。

 

ある程度治癒しても荷重を避けるような動きをしていくため脚はもちろん、上半身もそれに合わせて偏っていき二次的に肩の動きを制限していきます。

 

なぜなら、

「ここに荷重をかけたくない」

という心理は、

「息を止めながら動く」

に直結するからです。

 

本人は、

横隔膜や肋骨・肩甲骨の動きを止めて全身が力んだ状態になっている

ことに気付きません。

 

そのような状態の患者は、

「足首」と関係なさそうな動き、例えば

肩甲骨と肋骨を上手く動かして胸式呼吸をコントロールしたり、

体幹を捻って振り向く

といった動作が異常に下手になっている傾向にあります。

 

そのような現象がもし確認されれば、

「足首を痛がる」

という末端の問題に対して、

「肩甲骨や肋骨の動きを作る」

ことで過剰に安定させすぎた身体をリセットし、筋肉の柔軟性を確保した状態で身体を動かすことができれば、

足を無駄に緊張させず適切な荷重感覚を入れることができ、上半身も適度な緊張を維持することができる

という戦略を選ぶことができます。

 

 

 

 

小胸筋の強化

 

 

さて、小胸筋の重要な機能である

・肩甲骨を引っ張る

・肋骨を引っ張る

という働きに関する明確な指標の一つに、

肩甲骨の前後傾(前傾/後傾)

という運動があります。

 

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肩甲骨には様々な運動パターンがあり、非常に自由度の高い骨です。

その分、筋肉の状態に左右されやすいです。

 

小胸筋の機能である「肩甲骨を引っ張る」という力が過剰になりすぎる(過度に安定を求める状態になる)と、

烏口突起の部分で肩甲骨を前方+下方に牽引し肩甲骨が前に傾いた状態を作ります。

 

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この肩甲骨が前に傾いた状態が慢性化して固まった状態が「巻き肩」です。

 

「普段から姿勢を良くしろ」ということではなく、

必要に応じて肩甲骨の位置を自由にズラせる能力は、

日常生活の至る所で身体操作を効率化させます。

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実際には小胸筋だけの働きではなく、

特に後傾方向に働く前鋸筋や僧帽筋の作用も欠かせません。

 

肩甲骨を自由にズラしてバランスをとる

という動作は、結果的に下肢への負担を軽減し荷重を分散させるために非常に重要な役割を担います。

その主要なコンダクターとして、小胸筋は身体の中心に近いところで常にセンサーを光らせていると私は考えています。

 

極論、

寝返りや起き上がり、坐位の自由度、呼吸のパターンなど・・・

あらゆる身体操作の下手な患者の殆どは、肩甲骨の前後傾によるバランス戦略がとれていない可能性があることを頭に入れて訓練を行ってみると面白いです。

 

※ちなみに先ほどの足首の損傷後の患者さんは、肩甲骨の訓練後かなり改善したらしい...

 

肩甲骨の運動を引き出すためには、これらの筋肉や胸郭を含めた骨関節への正確な触診力が必要です。

これらの内容を、次回参加して下さる皆さんと一緒にしっかり学べたら嬉しいです。

 

 

 

まとめ

 

専門的な情報が多くなってしまい説明しきれていない部分もありますが、

今回は小胸筋の機能について、

「適度な安定」「肩甲骨を引っ張る」ことの重要性について紹介しました。

 

若手のセラピストの皆さんは特に、診断名にこだわらず目の前の患者に対して

「動きが下手な理由」

をマクロな視点で診る習慣をつけることで、

リハビリテーションの価値=患者満足

につながります。

 

今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

 

腰に爆弾を抱えた看護師の話

今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。

寅丸塾の管理人です。

 

GW中に記事をたくさん書いておきたい

という気持ちはあったのですが、結局バタバタして最初と最後の2つだけになってしまいました。

 

 というわけで今日は、以前もお話しした看護師さんの「その後」。

toratezza0316.hatenablog.com

 

 

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肩の問題を掘り下げる

 

前職場でお世話になったYさん(看護師)は現在も私の顧客ですが、

随分前から「肩が張って…」と自覚症状を訴えては私が慌てて応急処置をする

というのが割と日常でした。

 

「肩の症状」自体を緩和させることはそれほど難しくないのですが、

そもそも既往に「腰椎ヘルニア」を抱えているそうで、遠目に見ても身体の中心の動きがあまりよくありません。

 

 

*1

 

 

ヘルニアについて語り出すと話が完全に脱線するのでまたの機会にしますが、

彼女の場合は

「左の腰(鳩尾の左下後方)の辺りに爆弾がある」

「左大腿部の外側に痺れが出やすい」

という自覚症状(?)があったようです。

 

この時点でも深い部分の筋肉が上手く使えていないことが推測されますが、

ここでは「横隔膜」と「大腰筋」にフォーカスしていきます。

 

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図のように、

横隔膜は肋骨や腰椎を支点にドーム状に広がる筋肉

大腰筋は腰椎と大腿骨を繋ぐ強固な柱のような筋肉

ですが、

これらは腰椎の部分で互いに連結しています。

 

つまり、

横隔膜の動きは大腰筋のパフォーマンスに影響する

ということです。

 

平たく言うと、

どちらかがバカになると他方もそれに引っ張られるため、

それを補うために別の部分が代償します。

 

 

何度かお伝えしていますが、

人間は身体の一部が損傷すると不安定な状態となるため、安定を確保するためにどこかを固めます。

 

ヘルニアという問題を抱えた身体は、

「腰椎をできるだけ動かさず固めて動く」

という戦略を慢性化させ、

腰椎と強く連結している横隔膜の短縮を誘発させます

 

また、

大腰筋も緊張した状態が持続するため、

体幹の下半分の機能をかなり制限した状態で日常生活を送っている状態です。

 

体幹の上半分に負担を強いた状態のために、しょっちゅう肩こりを生じるのではないでしょうか。

 

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このような問題は、高齢者や多くの患者で日常的に生じる現象でもあります。

 

 

横隔膜が短縮して「腹式呼吸」への切り替えができず、胸式呼吸ばかりを強いていくと徐々に胸郭への負担が慢性化し、

肋骨や胸骨が疲労して硬くなります。

 

結果、

肋骨をズラせないために身体パフォーマンスは低下していきます。

※詳しくは下記の記事を参照↓

toratezza0316.hatenablog.com

 

 

改善の手立てはある?

 

さて、このような顧客の問題を考慮する際、

私はよく家に例えます。 

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 体幹をパーツに分けると…

 

・屋根=胸郭出口

・2階=胸郭

・天井=横隔膜

・1階=腹腔

・床下=骨盤隔膜

 

といった具合に、

勝手に構造的類似性を「家」に当てはめましたが、

床や1階の柱が弱った状態で2階が重たくなる

胸郭が腹部や骨盤にめり込み、常に上からプレスした状態になる

 

これによって、

内臓は常に圧迫された状態になるために下へ下へ逃げようとして、骨盤内に強い緊張を生じ股関節の動きも制限されてきます。

この状態が「内臓下垂」です。

 

したがって、

これらの問題を解決するには上からの圧をできる限り減らして内臓への負担を除去する必要があります。

 

 

スプリング構造の強化

 

そこで、やはり胸郭の動きに着目してみます。

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胸郭はスプリングのように、たわんだりズレたりしながら衝撃を吸収することで肺や心臓を守っています。

 

それが疲労して硬化してくると、

足回りをガチガチに固めた車のように(昔の自分の愛車のように)、少しの衝撃も吸収しない乗り心地の悪さにつながります。

 

実際に、

肋骨と肋骨の隙間に手を当ててみると「遊び」が乏しく筋肉(肋間筋や前鋸筋)が張っているのがわかります。

 

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これらの問題に対して、

関節構成体である「胸肋関節」の動きを引き出していきます。

肋骨と胸骨の間には「肋軟骨」という軟骨が橋渡しをしている。

特に第2-7肋骨の胸骨肋軟骨結合は滑膜性の関節として可動性がある。

後面には胸椎との関節面である「肋椎関節」があり、胸肋関節と合わせて2ヶ所を軸に上下左右に肋骨は動く(専門的にはこれを 前方/後方回転、 前方/後方滑りと呼ぶ。詳細はまた後日…)。

 

肋骨の動きは臨床上見落とされがちですが、

・手を伸ばす際には上半身が崩れない土台

・歩く時には重心移動の起点

として非常に重要です。

 

高齢者や外傷後の患者が大きな動きを嫌う(身体を固めたがる)のは、肋骨が広がらないためにダイナミックな動作には身体の中心に苦痛が伴うからではないか

と考えることができます。

 

 

下部肋骨の動きを出していくと、明らかに身体の内側から「ゴリゴリ」という音が響き渡ってきました。

 

おそらく、

腹腔に圧をかけていた肋骨が持ち上がって

腸へのストレスが解放されたために蠕動運動が再開した(全く動いていなかったわけではなく、動きが制限された状態だったと推測される)

と考えます。

 

これまでヘルニアを抱えた状態で代償動作を続けてきた結果、

2階や天井に相当する部分が1階を圧迫し続けていたために、内臓にとっては非常に居心地の悪い環境だったに違いありません。

 

 

今回は、

たまにしかお会いできないという都合上、結果的にかなり思い切ったエクササイズを提供することとなりました。

 

胸郭-横隔膜-腹腔-骨盤

 

という階層構造に対して、

呼吸や姿勢を安定させる筋肉の協調的な活動へとハンドリングした結果、本人

「あー動いた、ぐったりした」

らしいですがその分

「肋骨の動きが分かるようになった」

ようです。

 

 

まとめ

 

最近、

やたらとテーマにしている「肋骨」がメインの話でしたが、

時間がかかった割にまとまりのない文面になってしまいました。

反省・・・

 

内臓への物理的なストレスを減らして、「ヘルニア」という病理に伴う筋肉の機能不全を解決していくのはこれからなのですが、

少なくとも「二次障害」の要素は改善できることが今回のセッションで分かりました。

 

リハビリテーションの分野でできることはまだありそうですね。

 

セミナーに参加される皆さんには、これらの徒手療法の詳細についてご紹介させていただきますのでお楽しみに。

 

今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

 

 

*1:

ヘルニアとは、体内のある組織が本来あるべき位置から逸脱した状態を指す。

これが背骨(脊椎)のクッションである椎間板におこったものを椎間板ヘルニアと呼ぶ。

椎間板の中に存在する髄核というゲル状の組織が、外に飛び出してしまった状態。

神経が圧迫されることにより腰痛、脚の痛みやしびれ、重症例では感覚が無くなる、足が動かせなくなる。

なお、脊柱は頚椎・胸椎・腰椎・仙骨・尾骨に分かれるため、腰椎のレベルで生じれば腰椎椎間板ヘルニア、略して「腰椎ヘルニア」である。

手を診る時のポイント

今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。

寅丸塾の管理人です。

 

GWに入りましたが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

昨年に続いて、何かと行動を制限される休日となってますが…

 

最近は塾のメンバーが増えたこともあり一人一人と話すことが少なくなってしまい申し訳ないな…

と思いながらも、ブログを通じて補足的な説明をしていこうと思っています。

 

今日の話題は筋膜なのですが、特に「アームライン」について語っていきます。

 

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前回の記事はコチラ↓

toratezza0316.hatenablog.com

 

昔は若かった

 

私は元々病院勤務の作業療法士ですので、

「上肢」のリハビリテーションが必要な症例というものを多く経験しています。

 

なので、

若手の頃から「ハンドセラピー(主に上肢の外傷に対するリハビリテーション」に関してはある程度こだわりを持って仕事をしてきました。

 

しかし、

「筋膜」という知識を当時は持っていなかったために、

肩なら肩の訓練

肘なら肘の訓練

指なら指の訓練

みたいな考え方で動いていました。

 

それは、

「自分は肩や肘、指といった解剖学をしっかり学んでいる」

という自負があったからなのですが、

今思うとそれはただの無知な奢りだったな、と感じます。

 

今では、

「指の使い方」の異常と「肩の運動パターン」や「体幹」はリンクしていることを常に考慮しながら問題と向き合うようになり、

局所的・限定的なものの見方が如何に狭い視野だったかを痛感しております。

 

 

 

前腕線と後腕線

 

以前のブログで、

ディープ フロントアーム ライン

について言及しました。

toratezza0316.hatenablog.com

 

これは、

肩のインナーマッスルである小胸筋から始まって、

上腕二頭筋・橈骨骨膜

を経由した後、

母指球筋

に付着する、

上肢の前面を走行する筋膜のラインでした。

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胸と肩を繋ぐ「胸筋」

肩と肘を繋ぐ「二頭筋」

物を持ち操る「母指球」

 

これらはいずれも強力で、腕をよく使う人はこれらの筋肉が疲労しやすい傾向にあります。

そのために、

前面にある「アームライン」が短縮し身体を前に引っ張りやすいという傾向を持ちます。

 

 

 

一方、

 

ディープ バックアーム ライン

 

は、上肢の後面を走行する筋膜ラインです。

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頸→肩甲骨→上腕→尺骨→小指

つまり小指と頸を繋いでいる筋膜ラインなのですが…

 

その間に「肩甲骨」という上半身の土台を跨いでいるため、

肩甲骨の動きの悪さが頸にも指先にも影響する

という、

非常にデリケートなラインなのです。

 

 

肘や手首の外傷でギプス固定が取れた後の訓練は、

「肘や手首を動かすこと」

が最優先事項になりますが、

 

それまでギプスという異物を身につけていた患者の殆どは、左右のアンバランスから「肩こり」に見舞われています。

 

つまり、

上肢の重量が増え肩甲骨への物理的ストレス(+不動)が慢性化し、

肩甲骨の安定に不可欠な「肩関節腱板筋」の弱体化、もしくは硬化によって肩甲骨が機能しない状態になっていることが非常に多くみられます。

 

 

そもそも、

我々人間は二足歩行と引き替えに「前足」を宙ぶらりんな状態にしたわけです。

腕という物質が肩からぶら下がっているだけでも、肩甲骨には結構なストレスが生じているということ。

 

 

 

臨床推論へ

 

ちょっと難しい話になってしまいましたが、

ディープフロントアームラインは、前を走り胸から母指へ

ディープバックアームラインは、後ろを走り頸から小指へ

 

という違いがあります。

 

 

そして、臨床上の観察ポイントとして

 

「目の前の患者は物を握るとき、親指と小指、どちらをよく使うか?」

 

という見方はざっくりですが重要なポイントではないか

と私は思っています。

 

肩こり患者を含め、

上肢のどこかを損傷している人の握力は弱っています。

 

そのときに、

親指側に頼るような握り方になってしまう人はフロントアームラインが強く働き、バックアームラインは使えていない

という傾向があります。

 

これは、

雑巾を絞るとか包丁を持つとき、本来は小指側でグリップするべき所を親指に依存するような動きに露骨に表れます。

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このようなことから、

「手はよく動くようになったのに料理が上手くできない」

と仰る患者さんは一定数存在します。

 

 

健常者の「肩こり」に関しても、

・身体が前傾姿勢だ

・肘が曲がっている

・親指を握り込みやすい

・呼吸のとき胸が開いてこない

といった特徴があれば、フロントアームラインの緊張が強いのかもしれません。

 

逆に、

・頸の動きが悪い

・肩甲骨が硬い

・反っている

・親指の力が弱く手首を起こしながら握っている

などの特徴はバックアームラインが過剰なのかもしれません。

(※あくまでも個人的見解であって、100%そうだという主張ではありません…)

 

 

こういった視点で患者さんを診ることができると、

・どこを強化するべきか、

・どこの緊張を落とすべきか、

・最大の問題は指なのか?肩なのか?

といった幅広い視野で問題を捉えることができそうですね。

 

 

まとめ

 

今回は上肢の問題で(私が個人的に)よく比較する、

・ディープフロントアームライン

・ディープバックアームライン

について簡単に紹介しました。

 

筋膜ラインは全身に様々な形で存在するため、あくまでも基本的な考え方に過ぎません。

が、知っているのと知らないのとではやはりリハビリテーションの質がまるで変わってきます。

 

もしあなたがセラピストなら、

身体のつながり

という原則的な思考をもってリハビリテーションの質を高めていく努力をしていただけると幸いです。

 

今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

 

セラピストの価値について

今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。

寅丸塾の管理人です。

 

毎月恒例となったセミナーですが、今月も無事に乗り切って一安心です。

 

今日の記事は、その復習的な話(多分…)。

 

toratezza0316.hatenablog.com

 

 

 

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仕事の価値とは?

 

我々セラピストが仕事をする上で、常に直面するのが

「目の前の患者に、今どのような動きを教えるべきか?」

という思考です。

 

つまり、

自分の力では上手く起き上がったり坐ったりできない患者に対して、

何を評価して治療の優性事項を考えるか?

という作業。

 

 

多くの病院業務において、

リハビリテーションの依頼

→入院患者の部屋に伺う

→対象者は横になっている

 

という状況からスタートすることが多いですが、

圧倒的に多いのが

「柵につかまれば起きられます」

という状況ですね。

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そして、

多くの場面においてセラピストは

「ベッド柵につかまること前提」

で日常動作の練習に入っていきます。

 

 

ただ、ここで疑問が湧きます。

 

柵ありきで話を進めてよい?

 

 

柵に依存した運動とは、

自分の姿勢を自分で制御することなく、

より安定する物に依存した取り繕いに過ぎない

という風に考えることができます。

 

つまり、

姿勢制御→随意運動

の原則を無視した課題指向と言えます。

 

 

実際の現場では、

 

・そんなこと言ってられない

・どんな手段でもできればよい

 ・ADL日常生活動作の点数が上がればよい

という主張が挙がってくることも承知。

 

では、

なぜ時間を割いてまで「リハビリテーション」という業務が存在するのか?

 

それは、

動き方の選べない対象者に

動き方を選べるようにする

 

のがセラピストの役割だと私は思っています。

 

そして、

「柵に軽く手を触れる程度で起き上がれる身体」

にする事ができたら、

結果的に

対象者自信が「動き方」を選べ、ADLの点数も自然に上がってくる。

 

言うなれば対象者の生活の質(QOL=Quality of life)の底上げ。

 

それこそが「リハビリテーションの価値」であると私は考えます。

 

 

 

価値を与えるから「専門家」

 

ということで、

我々の仕事の価値は「対象者のQOLを高めること」ですが(※少なくとも私の中で)、色んな所でよく議論されるのは

理学療法作業療法はどうあるべきか」

です。

 

年々失われつつあるセラピストの価値を高めるために、

・対象者のニーズを細かく拾う

・他職種に啓蒙滑動をする

・業務を細かく分ける

・対象者の改善度を点数化する

・自宅復帰率を上げる

等々…

 

正直、

嫌というほどこのような議論に巻き込まれてきました。

 

しかし、

何故かこの議論にあまり考慮されてこないのが

セラピスト自身の実力をつける

という視点。

 

 

はっきり言って、

肩こり一つ治せない療法士を専門家と呼んでいいのだろうか?

 

その程度の実力しかないヤツが何をやっても表面的なことしかにしかならないよね…

と、私はいつも思う。

 

結局、

自分の手で病理を多少でも変えられるかどうか。

信頼されるセラピストってのはそういう存在。

 

寅丸塾はそういう存在になりたい連中の集まりだ。

 

 

 

動きの基本を考える

 

話を戻しましょう。

 

今回の参加者の中に、

すごく身体の重たそうな人がいるのか気になった私は、

実技を見せるに当たってその人を軽く評価してみることにしました。

 

パッと見ただけで「樽状胸郭」であることが分かった彼の身体は、

横になった状態では肩も腰も非常に重く、外からの衝撃(圧をかける)に対して非常に痛みが誘発されやすい

病院でよく見る呼吸器疾患を抱えた患者のようでした。

 

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これが何を意味しているかというと・・・

 

教科書的には、

タバコなどの有害物質が肺の細胞を破壊

→気管支が潰れ、気道が狭くなる

→努力呼吸によって気道を広げるが、死んだ肺細胞のスペースに空気が溜って流れのない場所ができる

→肺は膨張して円筒型の胸郭になる
・・・

 

ちょっと専門的な話ですが、要は

換気が悪くなればそれを補うために頑張って呼吸し、身体は徐々に凹凸がなくなっていき筒状になる

といった感覚でしょうか。

 

つまり、

当り前の感覚として凹凸のない身体には質の高い動きは期待できず、

多くの患者のように制限の多い、動きの硬さが目立ってくる

ということです。

 

そのような対象者を診る上で、最も優先すべきことは

「楽に動けるようにするにはどうしたらよいか?」

という視点。

 

そして、

凹凸をつくる上で欠かせないのが

「肋骨の動きをつくる」

という臨床思考。

 

最近の記事でも書いた、肋骨のズレについて。

toratezza0316.hatenablog.com

 

体表面から樽状に膨張した胸郭に変化をもたらすために、

最も分かりやすい指標として「肋骨の動き」を考えます。

 

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「〇〇筋の…」とか難しい話は置いといて、

このような左右のズレを生み出すことで、人間の身体はよりダイナミックな動きを作ることができます。

 

「寝返り」という動作においても、

肩と腰を上手く捻るような動きを作ることができます。

 

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このような原則的な要素を考慮することで、

最初に挙げた「柵に頼る動き」から脱却することにつながるのではないかと考えます。

 

もちろん、

高齢者など関節自体の構造的な問題を抱えていれば限界は低くなりますが、

健常者でこの程度の動きが出せないようでは、

そもそも健康寿命もたかが知れてきます。

 

そういった動きの質的な変化をもたらす実技を紹介しました。

※本人的には「めっちゃ楽になった」と言うてましたが、その後まずは自分の身体と向き合うという課題はどうなったでしょうか・・・

 

参加された皆さんには、ぜひとも自分の手で対象者の動きを変えていけるように精進していただきたいです。

 

 

まとめ

 

筋骨格系の問題に対して、

対象者の動きの質を改善するための戦略を考えることは、そのままセラピストの価値に直結します。

 

対象者=患者

だけでなく、

・動きに制限がある

・努力性だ

・痛い

etc・・・

といった健常者でも抱えがちな問題も、基本的には同じスタンスで診る目を養っていくことは超重要でしょう。

 

仕事の価値を考える上でも、個の力をつけることを最優先事項と考えるセラピストが増えてくることを祈っています。

 

今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

 

 

身体の安定と力の伝達

今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。

寅丸塾の管理人です。

 

新年度が始まり、

私も異動先での業務に追われる毎日ではありますが、前の職場の仲間のことも心配していました。

 

・・・特に、弟子1号のメンタルが心配。

離れても必ず「修行の日」を作るという約束をして、昨日はその1日目。

 

そんなお話です。

 

 

 

前回の記事↓

toratezza0316.hatenablog.com

 

 

試合と戦闘の違い

 

そもそも、

このブログのタイトルに示すように私は「平日」と「週末」ではマインドセットが違います。

 

会社員として手を抜いているつもりは決してなく、

あくまで「療法士」に求められる範疇で結果を出します。

 

しかし、

自由診療」という枠においては理屈や決まり事などどうでもよく、

とにかく「顧客の問題を解決して満足してもらう」の一点にのみフォーカスします。

 

この超シビアで世間一般的な療法士からは逸脱した生活様式において、

「経験」は何よりも自分の実力を底上げする要素。

 

故に、

日常場面で同僚に「ちょっと肩診てくれる?」と頼まれる程度では何の抵抗もプレッシャーも感じません。

 

が、

これが「週末の仕事」として依頼されると話は別。

なんせ報酬を頂いて、それに見合う価値を提供する必要があります。

 

 

これは、

ルールの下で行う「試合」と、

生きるか死ぬかの「戦闘」

くらい私にとっては違います。

 

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局所と全体

 

やっと本題です。 

 

前の職場にはリハビリ科以外にも私のことを気にしてくれるスタッフが何人かいて、

今回「ちゃんと時間をかけて診て欲しい」と依頼してくれた看護師さんもその一人。

 

そして、

弟子1号の修行も一緒にしてくれていい、

と、私たちのことを気遣ってくれる優しいその看護師さんの協力のもと、診療を開始。

 

 

「肩がめっちゃ張る」

という言葉通り、外から見ても明らかな程、肩が盛り上がっている。

 

手抜きができない人だから、

自分より大きな重症者の移動とか体交とか、日常業務の負担がのしかかったのだろう…

 

 

こういった問題を「評価」するとき、

 

「局所的な問題」

「全体のバランスの崩れ」

 

どちらを優先的に考えるかによって治療の組み立てが変わってきます。

 

 

例えば、

肩こり患者の問題として非常に多い「小胸筋」の機能障害。

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肋骨と肩甲骨を繋げる筋肉で、小胸筋が収縮することで肋骨を引っぱって呼吸を助ける

という、非常に重要な筋肉です。

 

肩こり患者の大半にこの小胸筋トラブルがありますが、

重症化してくると肋骨全体が硬化して、

もはや小胸筋だけの問題に留まらず肋骨に付着する筋肉全体が動かなくなる

 

というのが、ざっくりとした

局所-全体

の考え方になります。

 

 

肩の問題を広く診る

 

さて、

腕を真っ直ぐ上げて高い所のものを取ろうとすると、

以前も記事にしたように「ズラす動き」が重要だと言いました。

 

toratezza0316.hatenablog.com

 

 

つまり、

地面に足を踏ん張り、推進力を得た状態で上半身を伸ばしていく動き。

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高齢者の殆どは左の様に身体が安定せず(逆に安定しすぎていることも多いが)、

右のような効率のよい動きを作ることが下手です。

 

アナトミートレインで言うと、

「バックファンクショナルライン」でしょうか。

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このラインだけで動きを作るわけではありませんが、

 

「身体の安定」「力の伝達」

 

両者のバランスを上手く調整しながら、

 

姿勢制御 と 随意運動

 

をコントロールしているのが健常者です。

 

 

※「姿勢制御」についてはコチラ↓

toratezza0316.hatenablog.com

 

 

話を戻します。

 

 

目の前の看護師さんも、

やはりこの「身体の安定」と「力の伝達」というパワーバランスが崩れており、

「過度に安定している状態なのではないか」

と仮説を立てます。

 

それに対して、

不足している「力の伝達」をコンセプトとしたエクササイズを提供することで、

「安定しすぎな状態から、力が伝達しやすい状態に戻ってくるのではないか」

 

と臨床推論を立てることができます。

 

 

そして、

動きを作るポイントは

「如何に反対側の骨盤を連動させるか」

という視点で診ていくと、治療の幅がとても広がります。

 

※この辺りのハンドリングに関しては、来週のセミナーで紹介しますね。

 

最終的には

・親指が同側の腋窩に付く

・肩の張りが消える

・頸の動きに違和感がなくなる

・胡座(あぐら)姿勢で両肘が床に着く

・上肢を最大挙上しながら同側の坐骨への荷重をキープできる

 

など、明らかなパフォーマンスの改善を自覚されました。

 

 

 

獲得した動きを維持する

 

ある程度パフォーマンスが獲得されると、

セルフで機能を維持していくことが対象者には求められます。

 

身体の柔軟性やパフォーマンスを維持するための「ストレッチ」が必要になるのですが、多くの人は

「1日1回、しっかり時間を取ってやらないといけない」

と思いがちです。

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しかし、私は

「1回に費やす時間は10秒でもいいから、何十回でもやる」

ことを強くオススメします。

 

それは、

身体に「この動きは日常的に必要な動きだ」ということを学習させるためです。

 

 

人間は普段高頻度に使っている関節の動きは忘れませんが、

あまり日常使用しない可動域については忘れていきます。

 

 

例えば、

外傷などがない限り「肘の曲げ伸ばし」を忘れることはまずありませんが、

「股関節を最大限伸ばす」ような動きは歳を取るほど忘れていきます。

 

それが「硬さ」に直結するわけですが、

そもそも「使わないから」です。

 

使わなくなった場所は感覚も鈍っていき、固める方向に身体が変わっていきます。

すると、「安定」はしますが「力を伝達する」能力はどんどん失われていきます

 

そういった、

失われがちな能力を掘り起こすのはセラピストの役割に他なりませんが、

それを「学習」して定着できるかどうかは学習者の役割です。

 

もっとも、

定着せず硬い身体に戻ってしまうことはしょっちゅうです。

どうしても身体は安定している方が「楽」だからです。

 

それは学習者の責任というよりも身体の抵抗勢力ですので仕方のないことですが、

「変わりたい」という意思のある限り少しずつですが変化を積み重ねていくことが重要だと思っています。

 

 

 

まとめ

 

今日は「身体の安定」と「力の伝達」についての友人の治療について記事にしました(長文になりましたが…)

 

記事にすることでご自分の課題をより深く知っていただき、

私自信や弟子の勉強にもなると思ったからです。

 

職場を離れてもこうしてお会いできることや、

信用してもらえていたことを、私自身も嬉しく感じた1日でした。

これからも私にお手伝いできることは頑張りますし、弟子1号共々お世話になります。

 

今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

 

 

「魔法の手」を持つということ

今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。

寅丸塾の管理人です。

 

ドタバタの異動騒動も落ち着き、今月から異動先での会社員生活がスタートしました。

異動直前は、色んな人に声をかけてもらって、たくさん感謝の言葉を頂き「なんやかんやでいい職場だったなー」と思いました。

 

さて今日の記事は、異動先での出会いについて。

 

 

前回の記事はコチラ↓

toratezza0316.hatenablog.com

 

 

 

環境の違い

 

 

同じ事業団の運営施設でも、場所が変わればそこにいる人や環境は当然変わります。

 

私がこの度異動した先の施設は、療育センターと同じように重度の心身障害を抱えた利用者が生活しています。

 

このご時世、

医療福祉の現場は感染対策を徹底する必要があるため私は病棟専属のスタッフとなりました。

 

これまでと一緒ですが、施設の規模が同じであることに対して病棟配属のセラピストは私を含めて3人となります。

 

前の施設では7人(PT,OT,ST合わせて)で診ていたことを考えると、単純にマンパワーが半分以下になったわけです。

 

ただし、

セラピストの「個の力」を観察する限り、私はこの3人でも十分だと感じました。

 

なぜなら、

ここの古株セラピストの実力が非常に高いと感じたからです。

 

 

「魔法の手」とは

 

私がここへ来た初日、

私に引き継ぎをして外来業務へ移動する作業療法士は言いました。

 

「PTのFさんは魔法の手を持っている」と。

 

 

「魔法の手」とは、

セラピストが自分の手で変化をもたらすスキルを持っているということ。

 

 

私はFさんの治療を自分の目で見るために見学をお願いしました。

 

するとFさんはふと私の手をとり、

「橈骨骨膜」を優しくタッチした状態で暫くそのまま私の肩を見ています。

 

数秒後、自分の胸郭が徐々に広がってくるのを感じる私。

 

Fさん「これが何か分かる?」

 

私「小胸筋の活性化に伴う肋骨の引き上げです!」

 

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つまり、

Fさんは私の「橈骨」を触れただけで筋連結している(構造的につながってる)「小胸筋」の運動機能を高め、

胸郭を引き上げ深い呼吸をもたらすという小胸筋の重要な作用を強化したわけです。

 

 

これが「魔法の手」の正体。

 

 

重症患者に対してセラピストが与えられる価値の一つ、

「いかに楽に過ごせるか」

という考え方をこの人は持っている。

 

そして、それには

肋骨や胸骨、肺の動き

横隔膜のポンプ作用

内臓の可動力

自律神経系のバランス…

 

このような臨床思考をしっかりと持っている。

 

 

こんな所にも「職人」がいた!

 

 

私は全身の細胞が喜ぶのを感じました。

 

 

そう、

魔法の手なんてものは存在しません。

 

自分のスキルを磨き上げ、築き上げた臨床思考と経験によって最適な仮説・検証作業を行う「努力の手」の持ち主。

 

それが私の目指すセラピスト像です。

 

目の前の年配セラピストは、正にそれを体現している。

 

 

理学療法作業療法が世間的に認知されていなかった当時から、

自分の手で何かを変えたいという一心で色んな知識を吸収し、自分を叩き上げてきたことが会話しているだけでヒシヒシと伝わってきた。

 

そして、

一度は定年退職した今でも奢ることなく、学ぶことを諦めていない。

 

こんな人が職場にいたら、若手のセラピストはみんな憧れるに違いない。

 

道理で、ここのセラピストは病棟スタッフからの信頼を得ているはずだ。

 

おそらく、

外来業務をしているセラピストもある程度スキルを持っているだろう。

 

 

 

どうしよう。

今までいた環境と違いすぎる。

こんな職場は初めてだ。

嬉しくて笑いが止まらない。

 

自分はこの環境において、まだまだレベルアップできる。

そうして、寅丸塾にも還元できるに違いない。

 

セラピストの頭数よりも、

個の力を磨くことの重要性を改めて感じた2日間。

 

これから同じ目線で会話できるだろうし、

この人なら自分の甘い所を指摘してくれたり助言をくれるに違いない。

 

 

 

まとめ

 

異動先での出会いに感謝。

 

組織全体の質を高めるには、やはり「上」に立つ者が強烈な光を放っていることは重要だ。

 

後輩を見下したり率先してサボるような者のいる組織に発展性などない。

年功序列」という制度に何の疑問も持たず楽をしてきた者には分からないかも知れない。

 

ただ、

自分はこの先も職人として自分の「努力の手」を奢らず誇り、鍛え抜いていきたい。

 

今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

 

横向きになるということ

今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。

寅丸塾の管理人です。

 

4月の異動が決まってからというもの、自分のことはともかく残される弟子のため、時間を作っては実技指導の毎日です。

 

当初の予定だった「省エネ」とはほど遠い状態ですが、ここへ来てやっと週末以外でも本気になってきたような気がします(笑)

 

 

ということで、最近のトピックスである

「患者を動かすことを生業とするセラピストが、どのように動きを誘導するか」

という視点で切り込んでいきます。

 

 

 

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動きのない患者はとにかく重い

 

介護の経験者であれば容易に想像できると思いますが、寝たきりの患者は体重に関係なく「とにかく重い」です。

 

この「重さ」は厄介で、

身体の向きを変える(体交)とか起き上がるとか、オムツを替える

など、あらゆる場面で「介護負担」としてのしかかります。

 

 

 

さて、

この「重さ」とは一体何なのか?ということについて考えていきます。

 

 

病院時代、

満足に歩けない人はもちろん、ベッドから起き上がることもままならない患者をたくさん診てきました。

 

脳卒中だろうが外傷だろうががん患者だろうが、

身体に不自由さを抱えた人間は基本的に「身体を安定させること」を最優先に選択します。

 

分かりやすく言うと、

最も安定する(=接地面積の多い)姿勢である「仰向け」

が本能レベルで好きなのです。

 

背中をベッドに密着させ続けている

=背中側の筋肉の硬化

へとつながります。

 

後ろ半分が鉄板みたいに硬くなっている寝たきり患者はとても多いですね。

 

 

そのような方に対してセラピストが訓練を始めるとき、

大抵「坐らせること」からスタートするのですが、

何せ背中がガチガチで伸びないために、後ろに倒れようとする患者はとても多いです。

 

このセラピストが受ける抵抗が「コイツ重たい」という感覚なのですが、

そもそも坐るために身体を抱え上げる時点でかなりの抵抗を受けることになります。

 

 

この「患者が重たい」問題は殆どの臨床現場で日常茶飯事なのですが、

 

とりあえず坐れた→次は立たせる

 

という動作練習が完全に主流となっており、

「重たさをどうにかする」という視点が抜けがちです。

 

 

前回の記事でも紹介したように、

体幹の大部分は「胸郭」という左右12対の肋骨で覆われています。

toratezza0316.hatenablog.com

 

この肋骨は、呼吸する度に肺や横隔膜の動きに合わせて膨らんだりしぼんだりする忙しい構造なのですが、

寝たきり患者の場合、鉄板化した背中のせいで(それだけではありませんが)肋骨の動きは著しく制限されることになります。

 

つまり、

身体を動かそうにも肋骨がズレてくれないから身体が「しならない」

 

動きのない肋骨が肺を押さえ込み「呼吸がめちゃくちゃ浅い」

 

ことがそもそも機能障害として存在します。

 

 

これらの問題に対して、我々セラピストは

坐らせる・立たせる

ではなく、

坐りやすい状態をつくること

を考えていく必要があります。

 

 

肋骨がズレる姿勢

 

具体的にどうするのか?という話ですが、

 

目の前の「重たい患者」は横向き(=側臥位)で上手に寝られるか?

 

ということを、私はまず疑ってかかることにしています。

 

何故かというと、

背臥位と側臥位ではまるで身体操作が異なるからです。

 

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側臥位では構造的に体幹が下へ凸の状態となる

 

身体構造の特徴として、肩幅が最も長く、骨盤と肋骨の幅は性別や個人差によります。

 

つまり、

横径の異なる肩・肋骨・骨盤を横向きにすると、当然イラストのような体幹が弯曲した状態で地面に適応することになります。

 

専門的な表現をすると、

側臥位では体幹側屈(+回旋)状態、もしくは下に凸の状態で最も安定することになります。

 

したがって、

寝たきりで背中が鉄板化した患者の多くはこの「側臥位への適応」が非常に下手な傾向があります。

 

つまるところ、

体幹の大部分を占める肋骨がズレてくれないことで「寝返る」こと自体が超苦手なのです。

 

あらゆる動作において、

この「姿勢変換」への不適応という問題は臨床上非常に重要なのですが、

残念なことに養成校では全くそのような教育を受けてこないために大部分のセラピストが見逃してしまっています。

 

 

体幹に求めるもの

 

 

目の前の「上手く座れない患者」や「上手く立てない患者」に、

「〇分座らせる」

という耐久レースみたいな訓練をする前に、

 

・上手に側臥位がとれるのか?

・寝返りという動作の質はどうか?

 

という視点を養うことが重要です。

 

 

殆どの患者は、

体幹を鉄板化しているために体軸回旋を伴う動作を避けようとします。

 

つまり、

横を向きたくないのです。

常に左右対称な状態でいたいのです。

ズラす動きなんて、苦痛でしかないのです。

 

そのように仮説を立てると、

セラピストがやらなければならないことが分かってきます。

 

・背中以外でも支持面が作れる状態をつくる

・左右非対称な動きを許容する

・ズラすという運動を経験する

 

ということ。

 

これらを考慮したリハビリテーションの一つに

カップリングモーション」という考え方があります。

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これは、

体幹を捻る動きと倒す動が常に協力して動く仕組みを言いますが、

肋骨に関してのみ言及すると、

椎体(胸椎)が向いた方の肋骨は後ろに広がって背中に張り出し、反対側の肋骨は横に広がって平らになる

という運動の特性です。

 

 

このような原理を利用して徐々に肋骨の動きを作っていくような操作ができると、

固める必要のない部位がズレて本来の動きを出せるようになる可能性があります。

 

 

実際、最近ヘルプで診た患者も、

体幹が固まっており起き上がる際には背中を反らしたまま力任せに起き上がっていましたが、

肋骨の運動を作った後の起き上がりは「しなり」のある動きになりました。

 

この辺りの実践は、また次回のセミナーでやってみようと思います。

 

 

 

まとめ

 

寝たきりやそれに近い患者ほど、支持面の工夫や体幹をズラして動きの土台を作る必要性があることをご紹介しました。

 

問題の本質を見極めて患者に価値を提供するには、ある程度の知識とそれに基づく臨床推論が不可欠です。

 

1人でも多くのセラピストが、セラピストにしかできない仕事を自信を持って提供できるようになる。

そんなきっかけになればと思います。

 

今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。