週末に本気を出す療法士

自分の目に映る「リハビリ難民」を西洋と東洋、双方向から診る療法士。セミナー寅丸塾を不定期で開催しながら、普段は家でも職場でも子どもに振り回さる会社員。

横向きになるということ

今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。

寅丸塾の管理人です。

 

4月の異動が決まってからというもの、自分のことはともかく残される弟子のため、時間を作っては実技指導の毎日です。

 

当初の予定だった「省エネ」とはほど遠い状態ですが、ここへ来てやっと週末以外でも本気になってきたような気がします(笑)

 

 

ということで、最近のトピックスである

「患者を動かすことを生業とするセラピストが、どのように動きを誘導するか」

という視点で切り込んでいきます。

 

 

 

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動きのない患者はとにかく重い

 

介護の経験者であれば容易に想像できると思いますが、寝たきりの患者は体重に関係なく「とにかく重い」です。

 

この「重さ」は厄介で、

身体の向きを変える(体交)とか起き上がるとか、オムツを替える

など、あらゆる場面で「介護負担」としてのしかかります。

 

 

 

さて、

この「重さ」とは一体何なのか?ということについて考えていきます。

 

 

病院時代、

満足に歩けない人はもちろん、ベッドから起き上がることもままならない患者をたくさん診てきました。

 

脳卒中だろうが外傷だろうががん患者だろうが、

身体に不自由さを抱えた人間は基本的に「身体を安定させること」を最優先に選択します。

 

分かりやすく言うと、

最も安定する(=接地面積の多い)姿勢である「仰向け」

が本能レベルで好きなのです。

 

背中をベッドに密着させ続けている

=背中側の筋肉の硬化

へとつながります。

 

後ろ半分が鉄板みたいに硬くなっている寝たきり患者はとても多いですね。

 

 

そのような方に対してセラピストが訓練を始めるとき、

大抵「坐らせること」からスタートするのですが、

何せ背中がガチガチで伸びないために、後ろに倒れようとする患者はとても多いです。

 

このセラピストが受ける抵抗が「コイツ重たい」という感覚なのですが、

そもそも坐るために身体を抱え上げる時点でかなりの抵抗を受けることになります。

 

 

この「患者が重たい」問題は殆どの臨床現場で日常茶飯事なのですが、

 

とりあえず坐れた→次は立たせる

 

という動作練習が完全に主流となっており、

「重たさをどうにかする」という視点が抜けがちです。

 

 

前回の記事でも紹介したように、

体幹の大部分は「胸郭」という左右12対の肋骨で覆われています。

toratezza0316.hatenablog.com

 

この肋骨は、呼吸する度に肺や横隔膜の動きに合わせて膨らんだりしぼんだりする忙しい構造なのですが、

寝たきり患者の場合、鉄板化した背中のせいで(それだけではありませんが)肋骨の動きは著しく制限されることになります。

 

つまり、

身体を動かそうにも肋骨がズレてくれないから身体が「しならない」

 

動きのない肋骨が肺を押さえ込み「呼吸がめちゃくちゃ浅い」

 

ことがそもそも機能障害として存在します。

 

 

これらの問題に対して、我々セラピストは

坐らせる・立たせる

ではなく、

坐りやすい状態をつくること

を考えていく必要があります。

 

 

肋骨がズレる姿勢

 

具体的にどうするのか?という話ですが、

 

目の前の「重たい患者」は横向き(=側臥位)で上手に寝られるか?

 

ということを、私はまず疑ってかかることにしています。

 

何故かというと、

背臥位と側臥位ではまるで身体操作が異なるからです。

 

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側臥位では構造的に体幹が下へ凸の状態となる

 

身体構造の特徴として、肩幅が最も長く、骨盤と肋骨の幅は性別や個人差によります。

 

つまり、

横径の異なる肩・肋骨・骨盤を横向きにすると、当然イラストのような体幹が弯曲した状態で地面に適応することになります。

 

専門的な表現をすると、

側臥位では体幹側屈(+回旋)状態、もしくは下に凸の状態で最も安定することになります。

 

したがって、

寝たきりで背中が鉄板化した患者の多くはこの「側臥位への適応」が非常に下手な傾向があります。

 

つまるところ、

体幹の大部分を占める肋骨がズレてくれないことで「寝返る」こと自体が超苦手なのです。

 

あらゆる動作において、

この「姿勢変換」への不適応という問題は臨床上非常に重要なのですが、

残念なことに養成校では全くそのような教育を受けてこないために大部分のセラピストが見逃してしまっています。

 

 

体幹に求めるもの

 

 

目の前の「上手く座れない患者」や「上手く立てない患者」に、

「〇分座らせる」

という耐久レースみたいな訓練をする前に、

 

・上手に側臥位がとれるのか?

・寝返りという動作の質はどうか?

 

という視点を養うことが重要です。

 

 

殆どの患者は、

体幹を鉄板化しているために体軸回旋を伴う動作を避けようとします。

 

つまり、

横を向きたくないのです。

常に左右対称な状態でいたいのです。

ズラす動きなんて、苦痛でしかないのです。

 

そのように仮説を立てると、

セラピストがやらなければならないことが分かってきます。

 

・背中以外でも支持面が作れる状態をつくる

・左右非対称な動きを許容する

・ズラすという運動を経験する

 

ということ。

 

これらを考慮したリハビリテーションの一つに

カップリングモーション」という考え方があります。

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これは、

体幹を捻る動きと倒す動が常に協力して動く仕組みを言いますが、

肋骨に関してのみ言及すると、

椎体(胸椎)が向いた方の肋骨は後ろに広がって背中に張り出し、反対側の肋骨は横に広がって平らになる

という運動の特性です。

 

 

このような原理を利用して徐々に肋骨の動きを作っていくような操作ができると、

固める必要のない部位がズレて本来の動きを出せるようになる可能性があります。

 

 

実際、最近ヘルプで診た患者も、

体幹が固まっており起き上がる際には背中を反らしたまま力任せに起き上がっていましたが、

肋骨の運動を作った後の起き上がりは「しなり」のある動きになりました。

 

この辺りの実践は、また次回のセミナーでやってみようと思います。

 

 

 

まとめ

 

寝たきりやそれに近い患者ほど、支持面の工夫や体幹をズラして動きの土台を作る必要性があることをご紹介しました。

 

問題の本質を見極めて患者に価値を提供するには、ある程度の知識とそれに基づく臨床推論が不可欠です。

 

1人でも多くのセラピストが、セラピストにしかできない仕事を自信を持って提供できるようになる。

そんなきっかけになればと思います。

 

今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。