対話の重要性
今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。
寅丸塾の管理人です。
しばらくサボっておりましたが、ようやく再開です。
前回も紹介した、膝関節症を抱える顧客の「ある日の訓練」。
(前回の記事も併せて読んでみてください)
・リハビリテーションにおける対話
・「今」の課題を導き出す
・目先の指標
・まとめ
リハビリテーションにおける対話
そもそも対話とは、
特定のトピックスに関して、お互いの意見の違いを理解し合いその答えを探求していくこと
です。
決して自分の正しさを主張して相手を言い負かせることではありません。
患者から話を聴くことの重要性はセラピストなら誰もが知っています。
が、
特に経験の浅いセラピストにとって
話を聴く=基本情報の収集、又は雑談
のウェイトが高くなりがちです。
治療上の戦略をその場で決定したり舵を切り直したりするための「対話能力」を身に付けるには、それなりの経験が必要だと感じています。
そういう意味で、
これから紹介するやり取りが「対話の苦手なセラピスト」にとって臨床で役に立つきっかけになれば幸いです。
「今」の課題を導き出す
私:
今、一番気になることは何ですか?
顧客:
右脚に力が入らんから歩くとき不安定です。
私:
力が弱いから「倒れそうになる」ってことですか?
顧客:
いや、倒れそうなわけじゃなくて不安定。
私:
倒れそうな感じはしない…すごい頑張って支えている?
顧客:
前ほど頑張ってはないですよ。
私:
左脚の力が10としたら、右は大体いくらですか?
顧客:
「6」くらいです。前は1か2でした(笑)
私:
支えることはできているけど、徐々に右が疲れてくる訳ですね。
顧客:
そうなんです。ちょっとの間ならいいんですけど、だんだんこの辺(腿裏外側)が痺れてきて…
私:
ということは、力が弱いことそのものよりも、長続きしないことの方が問題ってことですね?
顧客:
そうです! でも、よくなってきたから調子に乗って…
私:
長く動けるためには、右も「10」になるように鍛えたらいいのかもしれませんが、もうちょっとスマートな方法を探してみましょう…少し前まで、膝がかなり力んでましたよね。
顧客:
そうですよね。今は全然気にならなくなりました。
私:
膝が痛くなることはない?
顧客:
ええ、少し前まではいつもピンと伸ばして力んでましたけど、かかとで踏ん張りが利くようになって、それもなくなりました。
私:
ということは、残った問題は脚の付け根のほうですね?
顧客:
ええ。
私:
股関節の周りの筋肉がいつも硬いんですが、今は特にどの辺が?
顧客:
今は後ろの方が…
私:
お尻の辺りですね?
顧客:
はい。
私:
今、背骨を前後に動かして腰を反ったりお辞儀したりできますか?
顧客:
やってみます…後ろへはよく伸びるようになりました…前は…あ、ちょっと待ってください…
私:
一度反ってから倒そうとすると、動きを切り替えるのに時間がかかりますよね?
顧客:
はい…腰が上手く動かんですね。
私:
骨盤を起こすことは大事なんですが、起こしたり倒したり衝撃を逃がすように変化させることはもっと大事です。〇〇さんは、この「骨盤の変化」が苦手なんじゃないですか?
顧客:
その通りです…だから長く歩いてると疲れてくるんですか?
私:
はい、変化がないから衝撃を逃がせない。歩くたびに骨盤に衝撃が蓄積して、固めた筋肉で守ろうとするんでしょうね。
顧客:
あー…腿裏がいつもすごい硬くなるんですよ。骨盤の動きがないからそうなるってことですね?
私:
そういうことですね。ということで、今日の課題は「骨盤をスムーズに変化させるようになる」にしましょう。
→治療へ
目先の指標
・・・40分程度の治療時間のうち、15分くらいはこんなやり取りをしていることに気が付きました。
ただ、
この方向性を決めることで「目の前の指標」が非常に明確化されます。
今回の場合、
「骨盤を前後にスムーズに動かせるようになった」
という結果が、
右足の不安定さや脱力感、腿裏の強張り
といった問題を解消し、
作業耐久性の獲得(長時間動ける)
につながるのではないか?
と仮説を立て検証していきます。
実際の治療については今日は触れませんが、
治療を組み立てていく上で顧客との「対話」は非常に重要だと改めて感じるエピソードでした。
ちなみに、
この日の治療後は骨盤の動きがスムーズになり、
「右足の不安定感」も解消しました。
日常的な耐久性も改善傾向したが、その分オーバーワークになりやすいためにメンテナンスが常に必要。
まとめ
今回は「対話」という、治療の方向性を決める重要な作業について紹介してみました。
方向性が定まると、徒手的な技術も意図が明確になり結果を出しやすいですね。
リハビリテーションを提供する側には技術は不可欠ですが、方向性を導き出すことも技術の一つであることを若手のセラピストにはしっかり学んでほしいなと思います。
ところで、
いつもながら記事を一つ書くのに結構なエネルギーを要します。
今後、どのような形でお送りするか?
いろいろ考えているところではあります。
今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
分離と協調について
今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。
寅丸塾の管理人です。
過ごしやすくなりましたね。
緊急事態もようやく終わり、今日は有給で子供の参観日(ミニ運動会)行ってきます。
何とか間に合った…
前回の記事はコチラ↓
ということで、今日は来週のセミナーのテーマである「分離運動」について、自分の中で整理する意味も込めてお話します。
セラピストの課題
医療の世界を長らく見てきて感じることは、
高齢者にとって何よりも重要なのは「健康寿命」です。
ただ長生きすることに動物学的な意味はありません(少なくとも自分にとって)。
地域で困っている人の力になる
これは自由診療を始めたときの私自身の思いでもありました。
ただ、
病院という閉鎖的で守られた環境で出会う患者と違って、
診断名も問題点も不透明な状態で、自分の責任の元に価値を提供する対価として報酬を受け取ることの「重さ」を感じました。
これは、
どれだけ病院の中で結果を出せていても、
どれだけイージーな病態だったとしても、
実際に体験してみないと分からない感覚です。
そんな経験を積み重ねてきたからこそ、今の自分が出来上がり後輩に伝えていけるだけの余力ができたのかもしれません。
さて本題です。
我々の仕事は対象者の「生活の質」を高めることですが、そのために最優先で考えることは
病的な動きを効率的な動きに変える
ことです。
※補装具や環境調整・社会資源・動作練習は補助的な手段。
専門的な言い方をすると、
分離運動の獲得です。
分離運動の捉え方
分離運動と聞いて、
リハビリバカ セラピストが真っ先に思い浮かべるのは脳卒中片麻痺の手足です。
麻痺の程度にもよりますが、殆どの片麻痺患者は肩と肘と指先をうまく使い分けることができず、ぎこちない動作になります。
つまり、
分離した運動ができず共同的な運動パターン(共同運動:腕を前に出そうとすると肘と指が一緒に曲がってしまう等)が優位な状態です。
これに対して、
肩と肘、肘と手首、手首と指・・・
というように、各部位を使い分ける練習をしていく過程で「分離運動を学習する」ことになります。
一方で、
脳卒中以外の分野でも分離運動のできない患者というのはかなり多く存在します。
例えば、
慢性的な凍結肩(五十肩)の患者は「動かすと痛い」という経験から常に力んでおり、腕を上げるときは腕全体を固めたり息を止めたりしながらの動きになりがちです。
膝関節症の患者は、膝をできるだけ動かさないように、股関節から足元まで最小限の可動域で歩こうとするために身体全体を振り回したり動揺しながらのパターンになったりします。
つまり、
麻痺はもちろん外傷や加齢による身体構造の変化、「痛み」など様々な理由で、我々はこれまで習得してきた効率的な運動機能(分離運動)が封印され、特異的な病理(共同運動、伸張反射、連合反応…)が出現してくるわけです。
鎧をまとった膝
ある顧客の話。
病院では変形性膝関節症と診断されている高齢女性。
初見では、
左手で杖をつき常に左重心、右足は膝を伸ばしきり股関節は曲がったまま。
よくあるhip戦略(=お尻を突き出したような恰好の歩き方)しかできません。
右足のどこを触っても痛く、床から足を持ち上げることもできません。
ちなみに、主治医からは膝の注射(一本16万円、保険適応外)を勧められたそうです。
ん?膝・・・?
あらゆる部位が機能していないのに、関節症という理由で膝のみをターゲットにする商売の正当性は…?
しかし日本では、特に高齢者にとって医者というのは絶対的存在です。
「この注射を打てばよくなる」
と言われれば、そうなのか?と思ってしまいますよね…
話が逸れましたが・・・
この顧客の問題は、
もはや膝という局所ではなく骨盤を含む身体の土台が崩れ、身体を安定させるには固めるという戦略しか選べない
ことにあるのだと解釈します。
大黒柱が折れた家を崩れないように支えるためには、
外壁や本来開閉する出入口を固めて動かないようにするのと一緒ですね。
これが、
筋膜的に言うと「ラテラルライン」や「スーパーフィシャルライン」に相当します。
これらを硬く絞って鎧のようにまとい、「膝を分離させない」ことで一応歩けるわけです。
これは病院でも多く遭遇する問題ですが、
膝に集中しがちな患者の注意を、どれだけ開放してトータルのバランスを底上げられるか?
という、
セラピスト側の洞察力と患者自身の問題意識の変換が重要です。
この例で言うと、
「とにかく膝が痛い」「力が入らん」
という訴えに対して股関節の動きを確認すると、
股関節を単独で動かすことがほぼできません。
また、
膝に関係なさそうな腕の動きもかなり制限されており、肩甲骨は埋もれた状態です。
体幹に至っては、胸部と腹部の境界(=肋骨の下縁)すら不透明です。
つまり、
膝の構造的な不安定性を補うために表面の筋肉が代償的に働き外壁を強固にすることにコンディションを振っていき、呼吸や体幹(肩甲骨・骨盤含む)の微細な動きは捨てていきます。
分離→協調
先ほどの問題に対して、私が選んだ戦略は…
①体の土台である骨盤が凍結した状態を溶かす
②単関節レベルでの股関節や肩、体幹の動かしやすい状態を定着させる
③複合動作における運動単位の収束
①②に関しては、
・腹斜筋-殿筋-大腿筋膜張筋
・起立筋-坐骨結節-ハムストリングス
・下前腸骨棘-大腿直筋-膝蓋骨
などなど・・・
骨盤を通過するあらゆるクロスポイントで滑走障害を生じています。
これらの問題を徒手的に、あるいは運動連鎖を利用することでリカバリーしていく作業が続きます。
ある程度①②が獲得されてくるタイミングで③へと進みます。
運動単位の収束とは、
ある動きをするのに必要な筋力を10として、現時点では50くらいの出力でやっているのを10に近づけていくこと。
つまり、
無駄な力を落として効率よく動ける
=協調的な動作にすること。
例えば、
「膝に力を入れて立っている」
というこの患者の本心は、
「膝を固めてないと不安定だから」。
なので、
「力を抜いて」という指導では患者の心に届きません。
そこで、
膝を固める代わりに筋出力の方向を明確化させてみます。
「かかとを床に沈めるようにして立ってみましょう」
すると、
膝を固める動きから、腿裏やふくらはぎで床から推進力を得る動作に切り替えることができました。
このとき、
「膝を固めなくても楽に立っておける」
という経験が患者の意識に刻みこまれると、運動学習という形で強化されていきます。
こうして学習できたことと、忘れてしまっていることを整理しながら、生活の質に直結していくように最近接領域での訓練をもうしばらく続けていきます。
まとめ
今回は分離運動をテーマに、久しぶりに症例の話を紹介しました。
後半は専門的な文章が多くなりましたが・・・
患者の経験する世界は基本的に健常者とはかなりズレがあります。
そのズレを、
修正できるものから修正していき「分離」「協調」動作につなげていくことが我々にとっての治療プロセス。
その手段はセラピスト次第なのですが、
私の場合は「筋膜」と「認知理論」を組み合わせることで自分のスタイルを確立しております。
来週のセミナーでは、この辺の内容を参加者と一緒にもう少し掘り下げて共有していきたいと思っております。
自分なりの方法でしか伝えることはできませんが、それに価値を感じてくれる人がいる限りは細々と続けていきます。
今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
療法士の適性について
今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。
寅丸塾の管理人です。
最近、職場の同僚から「娘が療法士の学校に行きたい」が「私にはどう説明したらいいかわからない」的な相談を相次いで受ける機会があり、久しぶりに学生時代を思い出しました。
ということで、
今日の話は療法士の適性についてです。
※かなり私見が混じりますので、読んで不快に感じた方は申し訳ありませんが、あくまでも私の意見ですのでそこはご了承ください。
療法士を選ぶ人の傾向(PT)
経験上、療法士の養成校に入る人の特徴として、
①自分や家族が療法士のお世話になったことがある
②仕事の特性に魅力を感じている
③親から勧められた
④医療職なら安泰だが看護師以外がいい
のどれかが大抵当てはまります。
私の場合は①ですが、学生の時の友人には②が多かったように記憶しています。
特に、理学療法士を選ぶ人は
「体を動かすことが好きで、できることならスポーツに関わりたい」
的な、かなり尖った意識を持っている人も多かったように感じます。
進路を決める高校生にとって、
「部活の延長みたいな感覚で仕事ができるかもしれない」
そのような期待を持つことは自然なことですし、身体を動かすことが苦手な人にはそもそも務まりませんので、適性という意味では高いものを感じます。
ただ、
実際に現場に出るころにはこの感覚を持ち続けている人はかなり少なくなってきます。
解剖学や運動学といった基礎知識と評価・治療という壁にぶつかり、
今の自分にできることはたかが知れている
という現実に直面します。
就職できる場所の大半は病院、クリニック、老人ホーム的な施設、訪問系…
と、選択肢も大体20年前と変わりません。
ですので、大半の学生はその中から「とりあえず」就職先を探し、そこで修行を積みます。
※修行を積むかどうかは本人次第。何年経っても進歩のないセラピストは多い。
ちなみに、
いわゆるアスリートクラスの人の身体を診るというのは、それこそトップレベルの知識と技術、経験値によって結果を出す指導力が求められます。
当然学校を出た程度のセラピストには務まりませんし、そういった領域に手を伸ばそうと思えば一般の人にも「あなたに診てほしい」と選ばれるくらいの実力を身に付けていること、年単位で独自に努力を積み重ねていくことは必須でしょうね。
療法士を選ぶ人の傾向(OT)
では、作業療法士を選ぶ人の傾向は?
作業療法士である私の場合、
ぶっちゃけ「PTとOTどっちでもよかった」のであまり参考になりません。
強いて言うなら「応用的動作能力」「社会的適応能力」という何となく高度なスキルが必要そうなイメージでこちらを選んだような気がします。↓参照
1「理学療法」とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マツサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう。
2「作業療法」とは、身体又は精神に障害のある者に対し、主としてその応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせることをいう。
※60年以上前にできた法律です。この文面そのままを鵜呑みにしてはいけません(笑)
ただ、私の周りの人達は明確にOTを選んでいました。
・家族が生まれつき障害を持っており、サポートしたい
・自分の家族ががんで亡くなったが、最後まで付き添ってくれたのがOTだった
・体の問題だけでなく、困っている人の役に立ちたい
etc…
そうなんです。OTを選ぶ人は、
病気=体の問題だけでない
ことをよくわかった上で、「人に寄り添う」という目標を持って養成校に入ってきた人が多い。
そのような仲間と大学生活をスタートしたことに、自分の動機が不純すぎて恥ずかしくなったことをよく覚えています。
とはいえ。
少なくとも一般病院レベルでは治療家としての実力が物をいう世界。
これは私の中では揺るぎません。
なぜなら、
リハビリテーションの必要な患者は、今よりも少しでも良くなりたいという回復への願いを常に持っているからです。
したがって、
理学療法士でも作業療法士でも、実働レベルでは目の前の患者に対して問題を解決させるための戦略を考えることは最優先事項であり、
そのための技術を磨く努力が嫌なら選ぶべきでない仕事だと断言します。
療法士になろうとする人へ
現実問題として、年々増加するセラピストの需要はすでに飽和状態になりつつあります。
なので、これからの療法士には質が求められ、資本主義の原則で考えれば生き残るための競争が必ず発生するはず。
ただし、
我々は医療保険という国の制度によって今のところ守られているので、危機感がなくても休日に遊ぶことばかり考えていても当面は職を失うことはないでしょう。
ですが、
動機が不純でも(人に勧められたからでも、資格を持ってれば「安泰」でも…)人の役に立ちたいという意思があれば、最低限の適性はあります。
現時点で私にとって、
理学療法士は身体を診るプロ
作業療法士は人間を診るプロ
という認識でいます。
少なくとも、
・理学療法士は身体については医師並みに知っておかねばならない
・作業療法士は人間の幸せとは何か?対象者を笑顔にするには何が必要かを常に考える
そのような努力や姿勢を資質と呼ぶのではないか?
そして、
どちらの道に進んでもどちらの考え方も合わせ持てる人材が、信頼されるセラピストになれるんじゃないかと私は考えます。
ぜひそのような思考を共有できる若者に、この仕事を選んでほしいなと思い、
私情入りまくりですが療法士になりたい人へのメッセージとさせていただきます。
今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
胸式と腹式
今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。
寅丸塾の管理人です。
前回の記事では、主に
・横隔膜の基本情報
・横隔膜と内臓の関係
について言及してきました。
今回はその続きです。
呼吸の種類
我々が生きるために不可欠な運動である呼吸。
その方法は大きく分けて2種類あります。
・胸式呼吸
・腹式呼吸
2つの違いはというと、
胸式呼吸は肋間筋を使って胸を広げる呼吸
腹式呼吸は横隔膜を使っておなかを膨らませる呼吸
です。
要するに、
胸式呼吸では「外肋間筋」が肋骨を外へ引っ張る
腹式呼吸では「横隔膜」が収縮して下がる
ことで結果的に肺が膨らみます。
どちらも呼吸に欠かせない筋肉ですが、
構造的にドームである横隔膜は深くゆっくりと動くのに対して、
肋間筋は浅く早い動きが得意な傾向にあります。
スポーツで素早い動きが求められたり集中して作業をするとき、人間は基本的に胸式呼吸になります。
その方が身体に適度な緊張が持続でき、高いパフォーマンスが発揮できるからです。
一方、
緊張状態から休息状態へと身体をシフトするのが腹式呼吸です。
ストレスが続くと交感神経が過度に刺激され、呼吸が浅くなり身体に十分な酸素を運べなくなります。
結果、疲れやすいとか、体調を崩しやすくなるわけです。
したがって、
身体を戦闘態勢にしたい時には胸式呼吸
身体をリラックスさせたい時には腹式呼吸
を使い分けることで我々は身体のバランスを保っているわけです。
難しく言うと、
・胸式呼吸は交感神経優位
・腹式呼吸は副交感神経優位
な状態にコンディションを整えているのです。
崩れやすいバランス
色んな年代のクライアントを診ていて感じることは、
多くの人が腹式呼吸が苦手で胸式呼吸優位だということ。
日常生活ではそもそも意識しませんが、
「腹式と胸式どちらも使いつつ、どちらかを優先して使うことが多い」
というのが実際です。
ただし、現代社会はストレスの温床です…
そもそも緊張状態が持続されやすい環境で我々は生きていますし、
便利な社会となり単純に身体能力が低下しているという可能性も大いにあります。
身体をリセットするとき私はよく深呼吸をしますが、
腹筋を使うと息を吐く動作をより強い呼気とすることができます。
つまり、
腹式呼吸には腹筋力も影響してくるため、筋力のあまりない女性は胸式呼吸が主な換気手段になりやすいのです(虚弱な男性や高齢者も同様に…)。
もっと言うと、
妊娠時に胎児の成長とともに腹式呼吸が困難になり、胸式呼吸に偏った状態が続きやすい。
乳幼児は肋骨が発達しておらず(走行が水平に近い)、肋間筋の働きが少ないために横隔膜の働きに依存するパターンとなる。
その状態で深く呼吸しようとすると、前々回お話した「呼吸補助筋」が肋間筋をサポートするために協力します。
つまり、
首や肩が力んだ状態が続きやすいということ。
この状態が続くことで様々な場面で「力が抜けない」動きに寄っていくという残念なことになりかねないのです。
経験上、
殆どの患者はうまく休息できない、いつも肩で息をしており必要以上に身体が緊張しています。
したがって、
多くの患者にとってリハビリテーションの第一段階の目標は
肩や首の負担を減らすこと
=交感神経優位な状態から副交感神経とのバランスを整えること
つまり、
必要に応じて緊張とリラックスを使い分けられる状態にすること
が重要な視点だと私は考えます。
自律神経系の調整
このような思考を日常に応用すると?
朝起きたときやスポーツをする前、つまり身体を活性化させたいとき(交感神経優位)には胸式呼吸が向いており、
夜寝る前やクールダウンさせたいとき、内臓を活性化させたいとき(副交感神経優位)には腹式呼吸が望ましい
と考えられます。
内臓を活性化させるとは、
前回お話したように横隔膜をポンプとして物理的に内臓への刺激を与えるという意味と、
内臓の機能は
・交感神経が優位な時には抑制され、
・副交感神経が優位な時に促進される
という原則に基づいています。
内臓には消化、吸収、排泄、内分泌など身体の環境を維持する様々な働きがあり、循環機能もその一つです。
身体が戦闘態勢の時、末梢の筋肉への血流は増加しますがそれ以外の働きは殆ど抑制されていきます。
その状態が持続すると消化不良をおこしたり、血圧調整や排泄能力が低下するといった問題が生じやすくなります。
結果的に、
「自律神経失調症」とか「更年期障害」などに代表されるトラブルに発展しかねないということですね。
もちろん、
トレーニングで対応できる要素とそうでない要素は区別していかねばなりませんが、
問題の一端を抱えこんでいる対象者は、経験上少なくないと感じています。
そういったクライアントに対して、
直接的な動作やスキル練習をしていく前に
・呼吸のパターン
・首や肩の負担の程度
・全身の緊張と弛緩のバランス
・適度な腹圧や柔軟性があるか
・中枢と末端の温度差(冷え)や炎症初見
・身体操作の水準(=体捌き・器用さ)
・精神的に安定しているかどうか
・理解力
などを考慮したうえで、優先事項を選択していきたいですね。
まとめ
胸式呼吸と腹式呼吸について、多少なりとも違いが分かっていただければ幸いです。
呼吸を意識することは現代人にとって意外と難しく、
療法士は「動作を指導する・歩かせる」といった課題志向的な性質によって、これらの原則を見落としてしまいがちです。
どちらが良くてどちらがダメということではなく、
どこかに過剰な負担がかかることで生じる身体内外のバランス不良
を避けるために、自分の呼吸を意識的にコントロールできることがパフォーマンスアップにつながっていくと私は考えています。
今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
横隔膜と内臓の関係
今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。
寅丸塾の管理人です。
結局この夏も、コロナに振り回されてばかりでしたね…
仕事に支障をきたしながらもやる気の波が通り過ぎない内に頑張って記事を書きます。
前回の記事では、体幹の1番上にあたる胸郭出口について述べてきましたが、
今日はもう少し下の空間について切り込んでみます。
横隔膜とは
セミナーでもブログでも繰り返し言及している「横隔膜」ですが、改めて振り返っておきます。
横隔膜とは体幹の真ん中で上(胸)と下(腹)を隔てるドーム状の筋肉です。
呼吸における最重要な筋肉で、
息を吸うときに収縮し、ドームの頂点が下がります。
そして、胸郭が広がり胸腔内は陰圧となるため肺が膨らみます。
逆に、
息を吐くときには横隔膜は緩みます。
肺が元に戻ろうとする力と広がった胸郭が閉じる動きが起きて、肺から空気が押し出されます。
要するに、横隔膜は
・息を吸う動作で下がる
・息を吐く動作で上がる
ことで、肺を肺を膨張-収縮させて換気をしています。
また、
この筋肉は骨格筋の中でも随意的にも不随意的にも制御されています。
我々は意識的に呼吸を早くしたり遅くしたり少しの間なら止めることもできます。
しかし、
寝ているときや意識していないときでも呼吸は自律的に行われており、生きている限り止まることがありません。
つまり、
横隔膜は手足の骨格筋と同様に随意的に動きを調整できる一方で、自律神経によって支配され休むことなく一日に2万回以上も上下運動をしているわけです。
横隔膜の上にあるもの
我々セラピストにとっては今更感満載な話をしましたが、ここからは横隔膜の周りには何があるのか?
という話です。
当たり前のことですが、体幹には臓器が詰まっています。
これはあくまでも模式図ですが、
体幹の上端(肺)から下端(膀胱/生殖器)まで、隙間なく詰まっているのが分かると思います。
ちなみに、横隔膜の位置はここです。
我々セラピストは伝統的に、
体幹については骨格筋のみをイメージすることが多い傾向にあります。
が、実際には骨格筋を中心に、その他の組織の位置関係を把握する重要性が近年注目されてきました。
先ほど横隔膜が上下に動いているといいましたが、
文字通り横隔膜の上に「乗っている」組織があります。
それが心臓です。
心臓は、
それこそ休むことなく血液を全身に送り続けている循環系の最重要器官ですが、
心膜という膜によって包まれています。
この心膜は、
ざっくり言うと心臓が体の中でズレることなく位置を保つために脊柱や肋骨からぶら下がって保護している膜ですが、
心臓の隣接組織ともくっついて、より強固な安定を保っています。
ただし、
過度に安定しすぎると動き自体を妨げてしまうため、ある程度の遊びが不可欠です。
つまり、
横隔膜と心臓は心膜によって物理的に連結しており、心臓の動きは
・心筋による自律的な運動
・横隔膜に連動した上下移動
という2つの運動パターンを持っていると言えます。
したがって、
血液循環の要である心臓のパフォーマンスは、
心疾患による心筋自体のトラブルによって低下することはもちろんですが、横隔膜の動きが悪くなる(=呼吸が下手になる)ことでも少なからず影響を受けるのではないかと私は考えています。
横隔膜の下にあるもの
では、横隔膜の下には何があるのか?
見ての通り、肝臓や胃が横隔膜の下に接しています。
特に、
肝臓は人体で最大の臓器であり、その位置と大きさから横隔膜のドームは右側が突き上げられたような構造になっています。
この肝臓について、細かく機能とか役割とか言い出したらキリがないんですが…
パッと見、
なんか「漬物石っぽい」と感じませんか?
というのも、
肝臓のすぐ下には胃腸があり、栄養を吸収しながら蠕動運動によって食物を運搬していく消化管としての役割があります。
そのとき、
横隔膜が収縮すると天井が下がっていき、肝臓という漬物石が上からプレスしてくるわけです。
そして横隔膜が弛緩すると天井が上がり腸へのプレスが開放され、これがポンプのような役目を果たし、内から腹圧を調整して消化管の働きを助ける
という働きをします。
故に、
呼吸の浅いクライアントの問題を考慮するときには、そもそも動力が不足しているため内臓自体の動きも少なく、消化管系のパフォーマンス不足にもなりかねないことを考慮してみると、問題を診る視野が広がってきそうですね。
おなかが硬い問題
横隔膜と内臓にはかなり関係が深いことが何となく伝わった思いますが、
内臓なんてものは通常、直接目に触れるものでないのでイメージしにくいのが実際のところです。
最近診ていて気になったことの一つに、
「自分のおなかに指を沈めていけない子」
がまぁまぁ多いということ。
本来、
鳩尾から下腹部までの空間は、子供であれば腹筋も強固でないためリラックスした状態ではかなり柔軟性があります。
が、
子供に自分で鳩尾やへその周辺をゆっくり指で押してもらうと、
すぐに痛がったり気持ち悪さを訴えたりする子がいました。
これが何を示すかというと、
・腹筋(腹直筋)を固めすぎている
・内臓同士が安定しすぎてズレてくれない
・そもそも横隔膜が使えてない
・神経系(迷走神経・交感神経節・横隔神経…)への物理的なストレス
などが考えられます。
多くの患者がそうであるように、
筋肉の使い方が下手で「固める」という手段に頼ると、呼吸は浅く早いパターンになります。
そのとき、横隔膜の運動は抑制しており内臓に対するポンプの役割も不十分になります。
内臓も平滑筋という筋肉ですから、本来は身体の動きに合わせて微妙に形を変えたりズレてくれます。
しかし深部での微調整ができないことでエネルギー効率が悪くなり、
・腰や足が重い
・動きにキレがない
・姿勢が悪い
・すぐ疲れる
など、パフォーマンスの低さにつながっていく子供が意外と多いなと感じました。
・・・長くなってきたので次回に続きます。
まとめ
横隔膜と内臓の関係についてフワっと紹介してきましたが、
「そんなん療法士の守備範囲じゃねーわ」
「論文が掲載されてない=エビデンス(根拠)はない」
という人もいます。
が、
人間の構造において筋骨格は全体の一部でしかないということも事実です。
少なくとも私が見てきた「結果を出せるセラピスト」は、目の前の患者の問題と向き合える人です。
臨床家にとってはそれが最優先事項。
今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
胸郭出口と呼吸の関係
今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。
寅丸塾の管理人です。
最近は自由診療でも子供の体を診る機会が多くなりました。
正直、親御さんの期待を裏切れないというプレッシャーから大変しんどい週末を送ることとなり…
その中でも、
子供の頃から気を付けておきたい部位の一つである「胸郭出口」について、今日は切り込んでいきます。
前回の内容はこちら↓
胸郭出口について
肩や頚の問題を診ることの多い私にとって、胸郭(出口)は臨床における生命線です。
なので、
自然と弟子に指導するときも熱がこもり、セミナーでも調子に乗って 特別時間をかけて喋った覚えがあります…
さて、
胸郭とは肋骨・胸骨・脊柱で囲まれた胸部全体を指します。
この中には胸膜を介して肺と心臓が包まれており、換気(呼吸)と血液の循環において最重要な器官であることに異論ありません。
そして、胸郭出口は
・胸郭と肩
・胸郭と頸
との連結部分を指します。
体表面からはわかりにくいですが、
この胸郭出口は非常に入り組んでおり、そもそもトラブルを生じやすい構造になっています。
代表的な問題として、
・斜角筋の隙間を通る腕神経叢の挟み込み
・鎖骨と肋骨の間を通過する動脈/静脈の圧迫
・小胸筋下のトンネルでの血管/神経の圧迫
これらの物理的な問題に伴う神経症状や循環不全によって、肩こりをはじめ末端のしびれや痛み、冷え、張れ、だるさ・・・
といった症状をきたす可能性があり、実際に臨床においては私自身も遭遇してきました。
呼吸補助筋について
ところで…
以前の記事でもお伝えしましたが、
呼吸に合わせて肋骨は膨らんだりしぼんだりを繰り返しているため、そもそも胸郭は四六時中動いています。
運動時や緊張したときなど、身体が戦闘態勢のときはより酸素を必要とするので、通常より多く胸郭を動かして肺を広げることで酸素を取り入れることができます。
その時働くのが呼吸補助筋です。
この呼吸補助筋は、
安静時のメインの呼吸筋である横隔膜や肋間筋を必要に応じてサポートしますが、
あくまでも「補助」筋なので、いつもは適度に休んでいます。
が、
高齢者や病院で出会う患者の多くは「頑張って動く」傾向にあり、いわゆる努力性呼吸が常態化している人にしょっちゅう遭遇します。
自由診療をするようになってからというもの、
「呼吸が下手で、胸郭の動きが感じ取れない健常者」
がとても多いことに気が付きました。
最も基本的な運動である「呼吸」が下手な人がかなり増えました。
気を付けていないと体が丸まっていくような刺激が多く、胸郭は常に縮まった状態が続きます。
前胸部が潰れ肋骨同士を滑りにくくさせ、
結果的に肺が膨らまない状態になります。
呼吸補助筋は、滑りにくい肋骨を首や肩の方へ引っ張り上げようと頑張り、徐々に硬くなっていきます。
全ての人がそうだとは言い切れませんが、そのような人の特徴として
・巻き肩
・背中に手が届きにくい
・肘が体の中心を超えない
・仰向けになると肩が浮く
・首がやたらと筋張っている
・肩を外へ開く動き(外転/外旋)が苦手
・胸郭が楕円形でなく筒状
・鎖骨の周囲を軽く押さえると異常に痛がる
・右のお尻の真上に左肩を乗せられない
など…
細かい解説はここではしませんが、共通することは胸郭と肩・頚の動きに余裕がなくなり可動域が狭まるということです。
胸郭出口の問題を鑑別する
さて、
そんなハイリスクな胸郭出口の問題、さすがに子供にはそこまで関係ないだろう、と思っていたらそんなことはなかった、という話。
先日、小学二年生の男の子を診せていただく機会がありました。
空手歴1年、細身で大人しく、人の話をよく聴いてくれる。
が、
足腰がふらつきやすいということをお母さんは仰っていました。
そうは言ってもまだ小学二年生ですから、そんなに身体はできていません。
もっと重要な問題はないかと観察していると、
・突きがやたらとフラフラしている
・身体が硬く動きがギクシャクしている
・ロングブレスが苦手
・仰向けに寝転ぶと肩が浮いている
胸郭出口の「肋鎖間隙」を触り、圧をかけるとかなり痛がります。
え・・・この歳で?
空手の技は瞬発力がものを言います。
きれいな形で動くにはそれなりの体軸の安定が必要ですが、小さい子にそこまで求めることは難しく、形を合わせにいくために突きや蹴りを出す度に「かなり力む」子もいます。
そのように胸郭を引き締めて固める習慣がついているのだとしたら、
目の前の技に必死になることで呼吸筋や補助筋の柔軟性が犠牲になり、骨関節の動きはもちろん「成長」を妨げかねないことは本末転倒です。
そこで、
お母さんにもこの問題を共有していただくために一緒に触ってもらい、お子さんの胸郭の動きを引き出すためのストレッチを習慣化してもらうことにしました。
つまり、
固めすぎている胸郭をリセットし、深い呼吸ができ肋骨や鎖骨を動きやすくして少ない力で肩を動かす(突きを出せるようになる)ことが、身体の成長につながる
そのようなコンセプトでこれからの練習に取り組んでいただくよう指導させてもらいました。
その後の様子については、またお会いする機会があればと思います。
まとめ
今日は久しぶりに上半身の話ができました。
高齢者や明らかな診断名のついた人だけではなく、ライフスタイルによってどの年代でも起こりやすい胸郭出口のトラブルについてフワっと解説してみましたがいかがでしょうか。
大人も子供も、今のご時世マジでストレスの温床です。
自分も決してストレスフリーではなく、常にプレッシャーとの闘いです(週末は)。
それでも、
信頼してくれる人のために貢献することが自分の役割です。
できるだけ楽しい気持ちで、悲しいことがあってもそれは心に締まって、これからも少しづつ発信していきますね。
今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
床反力と重心の関係
今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。
寅丸塾の管理人です。
最近の記事では解剖学に振りつつ、パフォーマンスを高める考え方をご紹介しております。
※なお今日の記事は、以前書きかけてお蔵入りさせてしまっていた内容を、リメイクしてアップしました。
床反力と推進力
経験上、
運動音痴と言われる子どもは「脚」という地面に接する部位の操作と、その力を上に伝えることがとても下手な傾向があります。
つまり、
専門的には床反力とか推進力と言われる、
床面に対して身体を効率よく運ぶ操作能力です。
※
床反力= 床から生じる身体に対する反力(外力)。立位や歩行場面では接地面である足部から生じる反発力の合成成分として表される。
推進力=物体を前に押し進める力
人は常に地面と相互作用しており、
身体操作の基本は身体と地面との関係性だと私は考えています。
例えば、
「走るのがとにかく苦手」
という子どもの場合・・・
このように、
床反力と推進力が運動方向と一致していない
可能性があります。
この場合、
前に行こうとしているのに脚は地面に対して加速するというよりも「踏ん張る」ような力をかけているために、望ましい推進力を得られません。
つまり、
ブレーキをかけながら一生懸命アクセルを踏んでいる
ために、かなりのエネルギーをロスしており
「疲れる割には大した結果が出ない」
状態です。
※ここでいうブレーキに相当する筋肉は大腿四頭筋(前腿)、アクセルはハムストリングス(裏腿)です。
この問題は、
運動音痴と言われる子どもはもちろん、我々セラピストが病院で出会う患者にも軒並み当てはまる部分がありそうです。
手と足の類似性
ところで、当たり前のことですが人間の手と足は役割が違います。
この当たり前のことを少し難しく言うと…
日常生活において、
下肢は常に地面に接しており身体を支えているため閉鎖運動連鎖の割合が多く、
上肢は常に何かを操作したり持ち運ぶ役割を担うために開放運動連鎖の割合が多くなります。
※
閉鎖運動連鎖=末端を固定して体を支える動き
開放運動連鎖=末端を空中に持ち上げる動き
以前の記事でもご紹介しました。↓
ただ、
我々の手が足よりもはるかに器用で細かい作業をこなせるようになるまで、
乳幼児のころから無意識に相当な経験を積んでいます。
我々が「手」と呼んでいる部位は、
4足歩行の動物では「前足」に相当する部位です。
実際、
赤ちゃんはこの「前足」に重心を集め「前足」に頼ることで移動する経験を積み、
徐々に前足(肩)から後足(骨盤)へと重心をシフトしていくことで前足がフリーになり、開放的な動作を身体が許容します。
そして、
必要に 応じて重心を骨盤から肩、前足から後足へと切り替えるスキルを身につけ直立姿勢を安定させることができるようになります。
故に、
「手」は本能的なレベルで足と同じ働きをする場所である
という前提で、我々セラピストは問題と向き合う必要があると私は考えています。
我々が病院で出会うほとんどの患者の「手」は、
・「手」の水準に到達しているのか?
・まだ「前足」のレベルなのか?
そのような視点で患者を眺めてみると、
・身体を安定させるために何かにつかまる
・何かを引っ張ることで動こうとする
・腕の力を足に伝えられない
・足の力を腕に伝えられない
・体を固めて守りに入っている
このような運動パターンを示す人は「見かけ」は手だが前足レベル、
つまり、
相対的に重心が高く上肢を開放して動かす余裕がない
と私は解釈しています。
重心を切り替える重要性
話を戻します。
先ほどの「走るのがとにかく苦手」な例で言うと、
非効率的な筋出力と床反力の関係によってパフォーマンスが上がらない
ことが問題であり、
その根底には
重心を切り替えることができず上体を進行方向に倒すこと自体が恐怖で、常にセーフティゾーン(基底面)の中でのみ動こうとする
という代償的な戦略を無意識に選んでいるのではないでしょうか。
実際、
私が療育現場で見た「走るのが苦手な子供」の大部分は、右のような体をズラさない走り方しかできない印象があります。
この問題に対して、
足を鍛えるというよりも、重心を肩から骨盤へと適応的に切り替えるられるように「身体操作」を学習していくことは、
あらゆるパフォーマンスにつながる非常に重要なタスクではないかと常々感じています。
そのように考えるとトレーニングは、
・閉鎖運動連鎖系の操作を重点的に経験する
・平面の動作→徐々に三次元的な動作
・重心を切り替える連続動作(左右/上下,右手⇔左足…)
・最低限の身体柔軟性獲得
といったコンセプトで提供してみる。
そうして重心をある程度コントロールできるようになることで、効率的な床反力を得やすい身体操作が可能になるかもしれません。
もちろん、
子供と高齢者では身体的なキャパシティが違いますし、全てがこれでうまくいくとも思っていませんが、
臨床推論を立てる上では一つの選択肢に加えてみると視野が広がるのでは?
と思います。
この辺りの詳細は、またセミナーの時にでもお伝えするとして・・・
まとめ
今日は床反力と重心の関係性についてフワっと紹介しました。
解剖、というより運動学系の話になってしまいましたが…
床反力についてはすでにたくさんの研究がありますので、
探せばいくらでも情報は得られますし言葉足らずな部分が多いのはいつものことなのでご容赦ください。
また、
このブログを読んで少しでも自分の身体やリハビリテーションの可能性に関心を持つ人が増えてくれたらいいなと思い、今後もそれなりの記事を書いていきます。
今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。