スポーツに振った臨床推論2
今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。
寅丸塾の管理人です。
前回、
ある少女の空手のスキルアップのためにどのような習慣をつけるのが望ましいか、について私見を述べました。
今日は、その続き<下半身編>です。
目次
下半身はどこから?
私が空手をやっていた頃は、
とにかく相手に近づいて欲しくないので間合いの外からポイントを稼きたい
という一心で、
「蹴り」を器用に使いこなすことを目標にしていました。
もっとも、
蹴りという技はそれ自体が目立つ動作ですし、空手を習う子どもにとっては「かっこよく」蹴りを出せることがある意味ステータスじゃないかとも思います。
さて、
「蹴り」とは言うまでもなく下半身の動きですが、下半身とはどこを指すのか?
という話をしてみます。
そもそも、
人間の身体を上と下に分けるとその境界線はどこでしょうか?
古い言い方になりますが、私は「丹田」を境界線と考えています。
丹田とは、
臍から指3本程度下にある経穴(ツボ)で東洋医学的には「エネルギー(気)を生み出す場所」という考え方になりますが、西洋医学的に表現すると
「重心」
です。
武道においては、
ある程度腹に力を込めた状態で技を出すのは基本です。
特に蹴り技のような片脚で支える状況では、下半身の起点である重心がブレずに次の動きへと瞬時に切り替える必要があります。
したがって、
激しい動きの中でも重心がブレないことは安定したパフォーマンスを発揮する上で非常に重要です。
しかし、
図のように、子どもは成人と違って重心位置が相対的に高い位置にあるため、構造的にそもそもブレやすいことが分かります。
※中学生くらいになると、二次成長によって骨格は徐々に成人に近づいてきます。
下半身を使うために
さて、
上半身と下半身の境界線はわかりました。
では、
上半身と下半身はそれぞれ独立して使うものか、というと決してそんなことはありません。
素早く突きを打ち込むためには軸脚の踏み込みと推進力に伴う並進運動及び回転運動が必須になります。
並進運動とは
「物体が捻れることなく平行移動する運動」
回転運動とは
「物体が位置を変えずに向きを変える運動」
と定義されています。
例えば、
ボールを投げる時に振りかぶって後ろの脚から前の足への体重移動は並進運動、身体を捻って腕を振りボールをリリースするまでの上半身の動きが回転運動ですね。
このように、
厳密には1つの運動に対してどちらの要素も含まれますが、
直線的な運動パターンと回転(回旋)の要素が多く含まれる運動パターンでは、
アナトミートレイン(筋膜経線)における姿勢制御の優先順位が変わってきます。
身体を捻ることなく直線に近い軌道を描く並進運動の要素が強い「順突き」や「足刀」はラテラルライン
身体の捻りを利用した回転運動の要素が強い「逆突き」や「回し蹴り」はスパイラルライン
をメインに動員することになりそうです。
※他にもファンクショナルラインの動員は欠かせませんが、今回は省略。
細かい構造はともかく、
ラテラルラインは頸から脚の裏まで体側面を安定させるように身体の外側を走り、
スパイラルラインは頸の後から始まりらせん状に胸郭を取り巻いてお腹の前で反対側へ交差し、脚の裏を通過して背面を覆った後に頸の後へ戻る長い筋膜連鎖です。
そして、
この2つの筋膜は同じ路線を走ったり分岐しながら、
側面や前面/後面を覆って姿勢の安定と動きを許容しています。
つまり、
重心が安定させて技を出せるということは、
上半身と下半身のいずれもが協調して骨盤を基底面内に留め、股関節と共に回旋や屈曲/伸展をしながら効率的な並進運動や回転運動を生み出せる
ということです。
下半身と上半身のバランス
さて、
ここでようやく、目の前の対象者が気にしている「蹴りのキレ」について考察していきます。
前回テーマにした通り、
「なで肩問題」や「親指問題」など決して上半身がバランス良く使えている状態ではありませんでした。
そのため、
・全身を固めやすく柔軟性に乏しい
・息を止めて動くクセがついている
・体幹や下半身の操作性が低く並進運動や回転運動の幅が狭い
といった、
エネルギーロスを引き起こすために力で押さえ込み、「形だけ整えている」ように感じられました。
そこで、
上半身の動きと下半身の動きを無理なく協調して行えるような練習の必要性を考え、
以下のようなテーマでエクササイズを提供してみる。
・骨盤と上半身の並進運動・回転運動
・呼吸の持続
・床反力を利用した閉鎖運動連鎖(Closed kinetic chain)
スタティック(動かずにそのままの姿勢をキープする)な要素とバリスティック(A⇔Bの姿勢を切り替えて動き続ける)な要素を混在させていますが・・・
以前も紹介した「ズラし」という考え方は、並進運動や回転運動を効率良くこなす上で不可欠な要素だと考えています。
可動域制限を来たしており動きが制限される部位に関しては(特に肋骨の周囲や股関節)、
・徒手的に関連のある組織を伸張する
・呼吸の様式を切り替える(胸式呼吸⇔腹式呼吸)
・一度に可動域を稼がずに少しずつ動きを広げる
といった微調整をしています。
訓練後は、
上半身(特に肋骨)による骨盤の引き上げが軸脚を助けることで並進運動が効率化して「脚が軽く」上がり、足刀のキレが増しています。
「宿題」として骨盤や肋骨・肩甲骨の操作を習慣化し、可動性を維持するワークをお伝えさせていただきました。
次回のセッションで、さらに高い水準を目指していこうと思います。
まとめ
空手というスポーツを題材に、上半身と下半身の役割について2回に分けて解説してみました。
情報を絞ってお伝えしたつもりが、あれこれと脱線してしまい伝わりにくい部分もアルト思います。
いずれにしても、高いパフォーマンスを発揮するには土台となる身体操作の効率性や柔軟性が必要で、
1つのスキルだけに拘らず多様な経験が必要だということが伝われば幸いです。
今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。