スポーツに振った臨床推論1
今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。
寅丸塾の管理人です。
先日、医療従事者枠でやっとワクチンを接種しました。
直後は何ともなかったのですが、一夜明けると注射した部位の「三角筋」がバカになっている感じがして腕が重たいですね・・・
さて今日の記事は、
ある出会いから「スポーツにおけるパフォーマンスの向上」という視点が自分の中に生まれたことに感謝しながら、私見を述べていきます。
目次
空手という競技の特性
突然ですが、
私はかつて空手を習っていた時期があります。
理由は「カッコよさそう」という、大変邪な動機でしたが、
それでも一応初段の免状がもらえた程度には、体捌きに自信を持っています。
※ただ、痛いのは嫌なので、組手も攻撃より守りに極振りして鍛錬していた思い出があります。
それはともかく…
空手という競技は、
突き
蹴り
受け
捌き
といった基本動作を試合が終わるまで流動的に繰り返し続け、
相手の技を上回るか相手の技を発揮させないようにコントロールするスキルが求められます。(※どの対人競技でも似たようなことは言えますが…)
なので、
・自分のスキルを発揮すること
・相手のスキルを封じること
は、ほぼイコールなんじゃないか、
と最近になって思うようになりました。
とは言え、
子供が空手を学ぶときに1番楽しく感じるのは、突きや蹴りといった分かりやすいスキルであることは間違いないです。
先日診たお子さんも、
強くなりたい=攻撃系のスキルを高めたい
という気持ちの感じられる、思春期ど真ん中の女の子でした。
身体的特徴から課題を絞る
なんでも、
空手自体は小さな頃から習っているがそれ以外の運動はあまり好きではないらしい。
そして、
失礼ながらとても空手をやっているとは思えないほど「なで肩」です。
なで肩という身体的特徴は、
生まれつきの骨格によるところもあるでしょうが、
生活習慣によってもつくられることがあります。
例えば、
小さいころからピッチャーなど腕を振る習慣がついていると
腕は身体の中心から外へ引っ張られ、
それが慢性化することで
肩が腕の重量に負けた状態=「なで肩」
になりやすくなるといいます。
したがって、
目の前のクライアントに対して
「肩のアライメント異常(=骨関節が正常の配列からズレている)による不安定性」
を強く疑ってかかり、
・どのようなパフォーマンスが影響を受けているか?
・どのような手段がパフォーマンスを効率化させてくれるか?
という視点で課題を考えることができそうです。
そこで、
観察や動作から「指標」をとってみます。
①拳をつくると親指にやたらと力が入っている
②「型」が流れやすい(ピタッと止まらない)
③「よつばい」の姿勢になると、
腕で体重を支えきれない
④頸が張っていて動かせる範囲が狭い
⑤疲れやすい(息を止めて動く傾向)
など・・・
文章だけでは伝わりにくいですが、色々と気になるポイントが出てきます。
筋膜ラインから問題を考える
物を握る時、
より安定した握り方は「小指側を締めること」
だと、以前も話題にしたことがあります。
①拳をつくったときに親指側に力が入り過ぎる
というクセは、
「ディープフロントアームライン」
を使い過ぎる傾向にあり、
逆に
「ディープバックアームライン」
はあまり使えていない(弱い)
と仮説を立てることができます。
経験上、
・子どもはまだ身体ができておらず、そもそも力の調整が上手くない
・力が上手く伝わらないときには「力む」ことで形だけは揃えようとする
ことは、臨床のあらゆる場面で観察されます。
「強い力で殴りたい」
という無意識的な欲求は親指の筋肉を緊張させやすく、
ディープフロントアームラインの影響で小胸筋の過度な収縮につながります。
すると、
前に押し出した腕に肩甲骨が引っ張られ肩を下げていきます。
本来ならディープバックアームラインである腱板筋や上腕三頭筋が肩甲骨を安定させて正しい位置に保つのですが、
力んだ状態で「突き」を出す(=アクセル)習慣は、
ピタッと止める(=ブレーキ)
という働きを邪魔します。
そして、
肩甲骨が安定しておらず後ろのラインに力が上手く入らないために、
腕で身体を支えられない
という、
スポーツにおいて割と致命的な問題を抱えることになります。
つまり、
まだ身体のできていない子どもが1つの技能を漫然と繰り返していくと、
一部の筋肉(筋膜ライン)だけが頑張りすぎて全体の発達を阻害しやすい
ということです。
したがって、
特に子どもの頃は何か1つのスキルに特化するよりも、色んな経験をさせて身体操作の原則をしっかり身につける方がメリットが大きい
ことを強く示唆しています。
バランスよく使うために
療育という場面で常に観察されるこれらの問題は、
所謂「健常者」の中にもかなり多い印象です。
今回は上半身に特化して話していますが、下半身のコントロールにももちろん課題はあります。
それはまた次回お話するとして・・・
上半身の問題に対しては、
肩の位置のズレを修正することが重要であると判断します。
それには、
「親指が頑張り過ぎるクセ」
を抑制して
「小指を使う習慣」
がキーポイントです。
なぜなら、
親指はディープフロントアームライン
小指はディープバックアームライン
であり、
バックラインを意識的に使うことでフロントラインへの偏りを減らすという運動学習が必要だからです。
例えば、
拳をつくるときは小指から順番に人差し指へと曲げていくこと
雑巾を絞る時は掌の小指側に引っかけるように捻る
棒状の物を持つ時には親指と人差し指を抜いて持ってみる
などが挙げられます。
私が療育の現場で仕事をするようになって、
思いの外「雑巾の絞り方」を知らない子が多いことに驚きました。
単純な握力の強い弱いではなく、
腕がすぐに疲れる子や、手先の器用さに乏しい子
の大部分が、こういった基本的な手の使い方ができていません。
また、
バットを振り回す状況に限らず(包丁・ハンマー・箒・・・)、
「しっかりとグリップする」
とは指にとにかく力を込めることではなく、
指の付け根と掌で上手く圧をかけることであり、
それを担うのは小指側のラインです(図でいうと小指の「B2~A1」エリア)。
※プロ選手は殆ど人差し指を抜いて握っている
このような習慣をつけるだけでも、アームラインの偏りは修正できる可能性があります。
加えて、
今回のケースでは徒手的な操作によって、
頑張り過ぎている筋肉(小胸筋)を落とし
頑張って欲しい筋肉(三頭筋・腱板筋)の働きを助ける
ように持っていったつもりです。
結果的に、
エクササイズ後は肩の位置が傍目にも正常化し、
腕で体重を支えやすくなり
頸周りの緊張が落ちて可動域が増え、
胸郭の動きも引き出される
といった指標の変化と自覚的な「肩の軽さ」が得られたわけです。
まとめ
スポーツでパフォーマンスをより高めるには、
そのスポーツに必要な身体操作の質を高めることがやはり重要ですね。
特に、
子どもの場合は「その動きしかやってこなかった」ことで明らかな「偏り」が生じているとしたら、
その競技を指導する人だけではもはや解決が困難である可能性が高いです。
そういった分野でも、セラピストの視点で物事を観察すれば十分価値を提供できる余地が残っているということ。
今回は上半身編、ということにしてかなり要点を絞って話しました(それでも長くなりました)がここまでとします。
次回は下半身についての話ができたらいいな・・・と思ってます。
今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。