区画に分けて考える
今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。
寅丸塾の管理人です。
今回から何回かに分けて、基本的な解剖学の話を記事にしていこうと思います。
目次
脚の役割
私は作業療法士という立場上、肩や肘を診る機会が股関節や膝を診る機会よりも圧倒的に多かったため、対象者の問題を肩中心に考える傾向が強いです。
そして、下肢について学ぶ時には「症状」と結びつけて考えるようにしています。
先日、
作業療法士の後輩を指導しながら、
苦手意識の強い「脚」をどう診ていくか?
という、過去の自分を思い出しながらあれこれと話をしました。
ヒトにおける一般的な下肢の役割は、
・体重の支持
・移動
に尽きます。
当然、立位では常に荷重がかかります。
スポーツをやっていれば、体重の何倍ものストレスをかけながら動き続けるために、年齢を問わず疲労が蓄積する部位です。
また、肉体労働を何十年もしてきた高齢者の腰や膝は、負荷に晒され続けた結果、不可逆的な変形を伴う痛みや循環障害、神経症状などを来たしている人も少なくありません。
そのような症状を抱えている人の脚を診る時、主要な選択肢として
コンパートメント症候群
を疑ってかかります。
コンパートメントについて
コンパートメントとは「仕切られた1区画」という意味です。
便宜上、身体の各部を解剖学的に仕切ることで、問題を把握しやすくなると私は理解しています。
図のように、
下腿(すね)を輪切りにすると、いくつかの区画に分けることができます。
・前区画
・外側区画
・後方浅区画
・後方深区画
これらの区画を隔てるのは骨や骨幹膜、中隔と呼ばれる筋膜です。
※筋間中隔=骨と最外側の筋膜に付着して、その部位の筋肉をいくつかのグループに分けている結合組織性の隔壁。
イメージ↓
区画の壁を構成する骨や骨間膜、中隔はいずれも強靱なため、1つの区画内で筋肉が腫れたり、出血や浮腫などが起こるとその区画の内圧が上昇します。
すると、
その中を通る血管や神経は圧迫され障害されます。
循環障害により壊死をきたしたり、神経障害が後遺障害となることもあります。
コンパートメントへの対応
明らかな神経麻痺や、変色や冷感など重篤な問題があれば即受診する必要がありますが、
立ち仕事や運動後に何となく足が痛む、痺れるといった程度の問題であれば、ストレッチやマッサージによって症状は割と緩和する傾向にあります。
経験上、
前区画の筋肉、特に「前脛骨筋」のオーバーユースによる炎症を引き起こしているケースが多いように感じます。
前脛骨筋は、教科書的には
・足首を持ち上げる(背屈)
・足の裏を内側へ向ける(内返し)
という動きをする筋肉ですが、
これが日常的にどう生きてくるかというと、
・足を床に着地する時のブレーキ(緩衝)
・足の裏の丸みをつくる(内側縦+横アーチ)
という、
歩いたり走ったりするときに身体にかかる衝撃を緩和するために非常に重要な筋肉です。
ブレーキが利かないということは、足を床にぶつける様に着地する(=常に足を痛めるリスク)ということを意味しますし、
扁平な足よりも丸みのある足の方が衝撃に対する緩和機能が高いことは容易にイメージできると思います。
前脛骨筋の弱い子どもや高齢者は、何とかブレーキを利かせるために強い力でつま先を引っ張り上げようとしますが、
そもそも上手く使えてないために「足の裏を内側に向けながら引っ張る」結果、足の小指側で着地するような動きになりやすく、捻挫のリスクがあります。
足元だけの問題では決してありませんが、こういった問題に対して
①前脛骨筋がしっかりと伸びる位置に持っていく
②同じ区画内の筋肉である長趾伸筋や長母趾伸筋の滑走を強化する
③骨間膜を介して隣接する後脛骨筋を働かせる
といった対応を考慮する必要があると感じています。
実際には、図のように①に関してスタティック(姿勢を維持する)なストレッチを実施しつつ、徐々に身体操作の要素を増やして②・③にも波及していきます。
もちろん、
リハビリテーションにおいては徒手的な操作を加えることも重要ですので、セラピストは解剖学的な位置関係をしっかり把握していけるといいですね。
※
歩行における前脛骨筋の役割に関して掘り下げていくとキリがなくなるし、色んなサイトでも専門的に解説してあります。
ここでは硬くなった前脛骨筋を柔らかくして、周辺組織への過度な圧力や絞扼性障害を軽減することが重要だ
ということを理解していただければ十分です。
まとめ
今回は、解剖的な話をメインにコンパートメント症候群についてフワッと解説してみました。
下肢のトラブルは体重支持と移動に直結するため、単体での問題に留まることは殆どありません。
ただ、主要な問題と二次的な問題といった要素を区別するために、部位に限らず正確な知識は持っておきたいところですね。
今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。