高次脳機能という言葉について解説してみた
今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。
寅丸塾の管理人です。
何回かに分けて脳科学とリハビリテーションについてご紹介してきました。
後半は専門的な内容が多くなりましたが、それなりにまとめたつもりです。
脳科学シリーズの最後に、
私が病院時代に最も強みを発揮していた「高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)」という分野についてご紹介いたします。
高次と低次のバランス
人間は動物の中でダントツに複雑な思考ができる霊長類ですが、
それは脳の中に3ヶ所ある「大脳連合野」が「密」に連絡しあっているからに他なりません。
大脳連合野とはパソコンでいうCPUみたいなもので、ざっくり言うと
・前頭葉=運動・計画・知性
・頭頂葉=空間・感覚・統合
・側頭葉=形態・言語・記憶
それぞれ役割分担をしながら膨大な情報を常に処理し続けている訳です。
ただし、
これらの連合野が成熟するまでには長い年月がかかります。
子どもは連合野という高次なCPUよりも「辺縁系」という、より低次な(本能的な)CPUの働きの方が強いので理屈や社会性よりも感情で生きています。
つまり、
高次なCPUである大脳連合野が成熟していれば低次なCPUである辺縁系の衝動をコントロールできるために、
「あの人は大人だな」
「社会性のある人だな」
「私の話にしっかりと向き合ってくれる」
逆に、
低次なCPUが強すぎたり高次なCPUが弱っていれば
「あの人は感情的な人だ」
「人の話を聴かないから信用できない」
などという周囲からの評価に直結します。
したがって、
病院に限らずあらゆる組織で人間関係に不満を抱える人は、
この高次なCPUと低次なCPUのバランスが悪い上司や同僚の言動への不満
と言い換えても差し支えないんじゃなか?
と、先日のセミナーで皆の意見を聴きながら思いました。
高次脳機能が破綻すると?
話が逸れましたが、
そのような原則を基に、
脳卒中などによって生じた「高次脳機能障害」という病態を考えると、
高次なCPUの一部(又は全部)が損傷欠けているため低次なCPUが優位になりやすい状態
と言い換えることができます。
高次脳機能障害の代表的な病態に、
「半側空間無視」
という障害があります。
名称の如く、
左片麻痺であれば左の空間を無視してしまうという、
何とも不思議な障害ですが急性期においては高頻度に遭遇する病態です。
この問題について色々と勉強してきましたが、
高次なCPUと低次なCPUのバランスという視点で患者さんの反応を伺うと、
・「左を見て」と言われても見ようとしない
・歩けるようになっても左側をあちこちにぶつける
・お膳の左端にご飯があっても手をつけない
といった問題行動はウチの子どもの、
・トイレに失敗してパンツを見せてといっても頑なに拒否する
・何か探しながらウロウロしてるとすぐぶつかる
・嫌いなおかずには目を向けようともしない
といった問題とすごく似ているな、と思わされます。
低次なCPUである辺縁系主体で生きている個体の判断基準は
・快か不快か
・楽しいかつまらないか
・報酬
です。
不快な空間や向き合いたくない事柄に対しては、人間は拒否反応が起ります。
左無視のある患者さんの身体は、
そもそも左が麻痺しており感覚も薄れていることが多いです(経験上、重度な麻痺が多い)。
そうすると、動物の防衛本能が働いて
「分かりやすい所だけを使え、不安な所には目を向けなくていい」
という低次なCPUで生き残るための効率を重視した戦略を選びます。
このように、
外からでは見えない本能的なシステムが働くために
「左を見ろ」
と説得しても、理屈より情動が優位な患者さんには響かないのです。
しかし、
病院では今だに一生懸命「左を見るトレーニング」をさせるために患者さんはもちろん、セラピスト側も疲れます。(何故もっと考えないのか、不思議でしょうがない)
高次脳機能の訓練には明確なテーマが要る
これらの問題を解決していくには、
①機能解離の原則
と
②感覚情報の比較・統合
という概念が不可欠だと私は思っています。
①機能解離とは、
システムの一部が損傷したときに回復モードに入るため、
情報が入ってこないようにするため周りの働きにもブレーキがかかる
という自然治癒力のことです。
自然治癒力を高めたいのであれば、
訓練の名の下に強いストレスを与え続けることはむしろ患者さんにダメージを与えることになりかねない
ということをセラピストはまず頭に叩き込む必要があります。
無知=罪です。
②感覚情報の比較・統合とは、例えば
左から入ってくる情報と、右から入ってくる情報がそこそこ一致していればどちらか一方への注意の偏りはなくなる
という考え方です。
そもそも、感覚とは「見る」だけでなく「触れる」「押される」「傾き」「筋感覚」など様々です。
患者さんは色々な感覚が希薄になっているにも関わらず、
訓練では患者さんにとって一番不快な「見る」ことだけにフォーカスしている不自然さにセラピスト自信が疑問を抱く必要があります。
以上より、
・自然回復を邪魔する事なく、
・視覚以外の感覚(個人的には特に筋肉の感覚)
を上手く利用して患者さん自身が身体に信頼感を持てるような方向性を提示できることが重要になります。
ということは、
高次脳機能を改善させるためには少なくともPT/OTが信頼し合ってリハビリテーションのテーマを共有するのが理想です。
(※病院時代、理想が叶った覚えがない。そういう意味では、今の環境はごく一部ではあるが叶いつつある)
いずれにしても、
短期間ですぐ変わるということは少ないため、根気の要る作業ではあります。
まとめ
今回は医療現場でもそこそこ認知されてきた高次脳機能について、部分的(やや偏見的?)ではありますが解説してみました。
・高次な脳機能=大脳連合野(理性)
・低次な脳機能=辺縁系(本能)
高次なCPUの部分的な損傷によって、感情や本能的な要素が強く出てくるために自己防衛の手段として外から見ると異常な行動が目立つ
そのような側面について言及してみました。
具体的な話をしていくと論文のように語り始めてしまうのでこのくらいにしておきます。
セミナーの中でも、必要に応じて話題を提供していきます。
今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。