週末に本気を出す療法士

自分の目に映る「リハビリ難民」を西洋と東洋、双方向から診る療法士。セミナー寅丸塾を不定期で開催しながら、普段は家でも職場でも子どもに振り回さる会社員。

脳卒中を診る時に忘れてはならないメカニズム

今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。

寅丸塾の管理人です。

 

 

新年明けましておめでとうございます。

波乱の年末年始ですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

 

私はというと、家族で妻の実家にお邪魔しては子ども連中にいいように遊ばれました…

 

 

それはともかく、

今年も本業に支障が出ない程度に、横のつながりを広げていきたいと思っています。

 

 

 

脳はシステムとして機能している

 

少し前から、「脳卒中」についてのトピックスについて解説しております。

 

前回は、

脳卒中のリハビリで必要なスキルについて紹介しました。

toratezza0316.hatenablog.com

 

今回は、脳卒中患者さんの「脳の中」について考えていきます。

 

 

脳卒中といっても様々な種類がありますが、

殆どの脳卒中に共通する問題は、

脳の血管が切れたり詰まったりすることで栄養不足による脳細胞の「壊死(えし)」です。

 

つまり、

運動や感覚の中枢を担う脳細胞の壊死が「麻痺」として表れるのですが…

 

臨床においては、

運動や感覚の中枢でない脳細胞の壊死でも「麻痺」は出現します。

 

 

病院時代はよく、画像所見(CTやMRI)上で

「この辺の出血なら麻痺はそんなにでないはずなのに・・・」

とか、

「この人梗塞は小さいのに動くのめっちゃ下手じゃね?」

みたいな会話が耳に入ってきました。

 

 

脳細胞には様々な役割分担があり、それらがシステムとして機能しています。

 

f:id:toratezza0316:20210103091718p:plain

 

システムとして機能する

とは、

「どれか一つでも欠けると本来の機能が著しく制限される」

という意味であると理解しています。

 

パソコンで言うと、

どこかのコードが1本切れただけで画面が写らず仕事にならないようなものでしょうか。

 

 

つまり、

「ここは損傷しているけどここは無事だから、このくらいはできるはずだ」

というセラピスト側の思い込みは非常に危険です。

 

 

健康な状態を仮に「100」とすると、

損傷したエリアが「10」なら、

差し引いた残りの「90」は使えるだろう、

 

 

という考え方が、

「残存機能で日常生活の練習をしていけばその内できるようになる」

という戦略を強化してしまい、

本質的な問題である姿勢制御や随意運動という機能障害と向き合おうとしないことが、残念ながら現在のスタンダートです。

 

 

 

機能解離という現象

 

繰り返しになりますが、

脳卒中は脳の血管が破れたり詰まったりする事で生じる血流の問題です。

 

したがって、

発症後暫くは脳の中に血が溢れたり途絶えたりします。

脳に血が溢れると、脳自体を圧迫することで脳が腫れ、頭の内圧が高まった状態になりやすいため、そもそも頭が回りません。

 

しかし、

徐々に血が引いてくると内圧も低下してくるため、

急性期病院のリハビリテーションにおいて、多くの脳卒中患者さんの状態は日に日に変化します。

 

これは、あくまでも患者さんの持つ自然回復にすぎません。

 

ですが、

目に見えて患者さんの状態が良くなってくるものだからセラピスト自身が

「自分のおかげだ」

と勘違いし始めると、どんどん課題を要求していきます。

 

 

しかし、

ここで注意しなければならないことは

「システムが破綻した状態は続いている」

ということです。

 

 

つまり、

患者さんのコンディションは

100-10=90

ではなく、もっと低下した状態です。

 

f:id:toratezza0316:20210103112536p:plain

 

上のように、

一部が損傷した状態になると上手く情報が処理できなくなります。

 

すると、

自動的に損傷した部位に負担をかけないように周辺の組織が仕事量をセーブして、全体の機能を抑制するように働きます。

 

つまり、

仕事よりも休息を優先し、自然治癒力を高めるモードに移行するわけです。

 

これを機能解離現象と呼んでいます。

 

 

したがって、

患者さんの自然回復を促すという意味においては、

あれこれと運動をさせ続けることは矛盾を来たします。

 

 

「動かすな」

と言っている訳ではありません。

 

運動学習を促す立場であれば、

・なぜ下手なのか?

・なぜ麻痺していない側の動きにもこんなに努力がいるのか?

・何から学ばせる必要があるのか?

 

を考えて、より戦略的なリハビリテーションを提供していくのが我々の仕事です。

 

 

なお、機能解離現象は発症後3ヶ月程度まで徐々に緩解しながら続きます。

これが、脳卒中の回復は概ね3ヶ月程度まで、と言われている根拠になります。

ただし、それ以降の回復については「運動学習」という要素が非常に重要になります。

それについてはまた後日、記事にします。

 

 

 

脳科学という学問は難解で敬遠されやすい分野ですが、

臨床につながる最低限の知識は専門家として絶対に必要です。

 

 

「私は脳のことは分からないです」

と平気で口にするセラピストをこれまで何人も見てきました。

 

 

脳が分からないセラピストに脳卒中患者さんの何が分かるのだろうか?

 

 

これをお読みになっている方で、身近な人でリハビリテーションを受けている方がいらっしゃったら、

納得して治療が受けられているのかもう一度よく確認してみてはいかがでしょうか?

 

 

最後に毒を吐いて締めくくりましたが、

今日もここまでお読みいただきありがとうございました。