出来ることを増やそうとした結果痛みが増えた!?
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脳卒中のリハビリテーションについて、前回から記事にしています。
今の私の勤務先(非常勤)は病院ではなく老人保健施設ですので、発症直後の急性症状を診ることはなくなりました。
代わりに、問題が慢性化し家では生活できない、もしくは何かサポートがないと悪化してしまうと判断された方の症状を診ています。
その中でも重症例の一つが、
脳卒中発症後数ヶ月~数年経過し、身体がガチガチに固まっており何をするのも痛いという対象者です。
このような方は大抵の場合、急性期・回復期とリハビリを長く受けてきた方なのですが、
なぜリハビリを続けてきたのにむしろ状態が悪くなってしまったのか?
という疑問が生じます。
脳卒中により片麻痺(片側の手足の麻痺)を生じた対象者の問題は客観的には
「手足が思うように動かせない」
ということなのですが、
それなら悪くなってない側で補えばそこそこ動けるんじゃないか?
と何となく思いがちになります。
しかし、
実際には非常に動きが下手な方ばかり。
それは片麻痺という現象が随意運動の問題以上に姿勢制御の問題を誘発しているからです。
随意運動/姿勢制御についての記事はコチラ↓
重症な方ほど、姿勢制御に関する要素が破綻し
「どうやって坐るのか忘れた」状態になる傾向にあります。
細かいメカニズムについてはここでは伏せておきますが、
以前も言及したようにこの状態になると人間は少しでも安定を得ようと身体を固めるという戦略に走ります。
ただでさえ不安定に感じているところに、
更に動きを次から次へと要求していくと身体は緊張した状態が当たり前になり、
典型的な「片麻痺っぽい姿勢」ができあがっていきます。
そして、
ぎこちない動きしかできない患者さんに「力をつけなさい」と誰もが声をかけるため事態は悪化していき、
慢性的に筋疲労を起こしたある日「肩が痛い」「脚が痛い」と仰るようになります。
つまり、
対象者が痛みを訴える原因はセラピストの指導に問題がある
可能性があります。
ただ、
現在の医療体制自体が「早く動かす」「出来ること増やす」ことをやたらと強調しがちになっていることもあり、
一概にセラピストだけのせいではないが
直接患者の人生に影響を与えるセラピスト自身に優先順位を見極める目がないと話にならない
ことを繰り返しておきます。
話を戻しますが、
身動きするのも痛みが伴うほどの慢性化した問題を抱える脳卒中患者さんの体幹はほぼフリーズしているため
骨格筋(=腹筋・背筋・呼吸筋)も平滑筋(=内臓)もバカになっている可能性が非常に高いと言えます。
ある脳出血後約1年経過した患者さんと初めて対峙したとき、
麻痺自体はそこまで重症ではないものの、麻痺した左半身をどう動かしても痛みが出現し「寝返りもできない」状態です。
これに対して、直感的に隔膜の機能不全を疑います。
隔膜とは、人体の器官や組織を仕切る「繋ぎ目」に当たる部分(電車で言えば車両と車両の連結部位)で、
どのような動きであってもここが柔軟でなければ何一つ円滑な動作として遂行出来ません。(赤線を引いた部位を全く動かさずにベッドから起き上がれる人がいたら紹介して下さい)
つまり、重症度の高い対象者ほど「離床した・しない」という論点ではなく身体を分節的に捉えて課題の優先順位を探る努力が必要なのです。
ちなみに、
先ほどの対象者の場合は横隔膜が固まり過ぎて呼吸がメチャメチャ浅い。
⇒まずは横隔膜がそこそこ働ける状態にまずは持って行く必要がある。
そこで下部体幹の筋活動をアシストしていくと腹部に動きが出てきて「気持ちがいい」「楽になった」という変化が現れてきます。
もちろん問題が慢性化しているので少しずつ変化を定着していく作業になるのですが、ネガティブな感覚がポジティブなものに上書きされていくことは緊張状態を解く最大の戦略になり得ます。
とまぁ、内容が内容なだけに今回も専門的なお話になってしまいましたが、
不用意に目に見える動きばかりを追求した結果、自分たちが問題を悪化させていないか?
と、世のセラピストは今一度真剣に考えましょう。
楽じゃないけど、徒手的な操作でしか改善に導けない事例がたくさんあることを肝に銘じて、個別に問題と向き合いましょう。
今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
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