週末に本気を出す療法士

自分の目に映る「リハビリ難民」を西洋と東洋、双方向から診る療法士。セミナー寅丸塾を不定期で開催しながら、普段は家でも職場でも子どもに振り回さる会社員。

小胸筋についての考察

今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。

寅丸塾の管理人です。

 

広島県が急に政府の都合で危険地帯認定された余波で、セミナーが一回休みを食らって地味に凹んでいます。

が、これを期に色々と準備の必要性を考えさせられました。

 

さて、今日の記事は今日のセミナーで伝えるはずだった内容になります。

 

前回の内容はコチラ↓

toratezza0316.hatenablog.com

 

 

 

 

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小胸筋とは?

 

自分の職業柄なのか、何度もこのブログに登場する小胸筋。

※多分、好きな筋肉を1つ挙げろと言われたらこれを選ぶでしょう。

 

「大胸筋」が有名過ぎて、そんな筋肉あるの?

って思う人も結構いるはず。

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小胸筋は肋骨と肩甲骨を繋ぐインナーマッスルで、

教科書的な言葉を借りれば

「肩甲骨を下に引き下げる作用」

「第3~5肋骨を引き上げる作用」

があります。

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私に限らず多くの療法士はこの基本情報を学生の時に機械的に覚えた(一時的に?)ものですが、

おそらくこの文面だけでは「小胸筋」の重要性は伝わりません。

 

 

呼吸に必要な小胸筋

 

もう少し掘り下げて考えます。

 

筋肉の付着部が肋骨と肩甲骨なので、

肋骨の動きと肩甲骨の動きを制御してそうなことは想像できます。

 

「肩で息をする」

という表現からも分かる通り、

人間は運動時など努力呼吸をするときに少しでも多くの酸素を取り入れるため、

普段は横隔膜メインでやっている呼吸を肩に近いエリアまで拡大させて「胸郭」全体を動かそうとします。

 

これを胸式呼吸と呼びますが、

胸郭の中にある肺を広げるために肋骨は回転して胸腔自体を広げるような動きをします。

このときに上側の肋骨をさらに上方へ引っ張るのを助ける存在が「小胸筋」です。

 

 

 

引っ張るために必要な要素

 

ただし、

考慮しなければならないことがあります。

 

肋骨と肩甲骨を繋げた状態で「どちらかを引っ張る」ということは、「どちらかが安定」し「どちらかが柔軟」であることが絶対に必要です。

なぜなら、

軸になる側が不安定では引っ張ろうとしても力が伝わりません。

 

逆に、

軸になる側と引っ張られる側が安定しすぎている場合、

つまり肩甲骨も肋骨も硬くなってしまって動かせないような状態だと、

引っ張ろうとしても遊びがないため2点の距離が変わらない

という事態が生じます。

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この原則的な考え方でクライアントの問題を診ていくと、

たとえば重症の肩関節周囲炎のような、所謂フローズンショルダー(凍結肩)の患者は肩甲骨も肋骨もビクともしません。

肩だけに問題は留まらず、体幹が完全に固まった状態になり「振り向く」様な動きすら身体全体で方向転換しないと後を向けない

 

このような患者に遭遇したことのないセラピストはおそらくいません。

 

それくらい、

臨床ではガチガチに身体を固めた患者に遭遇することは多いです。

 

 

不安定な身体は安定を求める

 

そして、

「不安定」なために引っ張る力が伝わらないという状態になると、

人間の防衛機能の働きによって代償的にどこかを安定させようとします

 

 

先日、ある若手セラピスト(有望株)からこんな相談を受けました。

 

足首を損傷した患者の術後リハについて、

すでに退院し外来通院できるレベルだが中々痛みが緩和しない、という話。

 

足の細かい解剖学の話は今は置いといて、

足首という荷重のかかる部位を損傷することで、人間はその不安定な足首に荷重をかけたくないという心理が働きます。

 

ある程度治癒しても荷重を避けるような動きをしていくため脚はもちろん、上半身もそれに合わせて偏っていき二次的に肩の動きを制限していきます。

 

なぜなら、

「ここに荷重をかけたくない」

という心理は、

「息を止めながら動く」

に直結するからです。

 

本人は、

横隔膜や肋骨・肩甲骨の動きを止めて全身が力んだ状態になっている

ことに気付きません。

 

そのような状態の患者は、

「足首」と関係なさそうな動き、例えば

肩甲骨と肋骨を上手く動かして胸式呼吸をコントロールしたり、

体幹を捻って振り向く

といった動作が異常に下手になっている傾向にあります。

 

そのような現象がもし確認されれば、

「足首を痛がる」

という末端の問題に対して、

「肩甲骨や肋骨の動きを作る」

ことで過剰に安定させすぎた身体をリセットし、筋肉の柔軟性を確保した状態で身体を動かすことができれば、

足を無駄に緊張させず適切な荷重感覚を入れることができ、上半身も適度な緊張を維持することができる

という戦略を選ぶことができます。

 

 

 

 

小胸筋の強化

 

 

さて、小胸筋の重要な機能である

・肩甲骨を引っ張る

・肋骨を引っ張る

という働きに関する明確な指標の一つに、

肩甲骨の前後傾(前傾/後傾)

という運動があります。

 

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肩甲骨には様々な運動パターンがあり、非常に自由度の高い骨です。

その分、筋肉の状態に左右されやすいです。

 

小胸筋の機能である「肩甲骨を引っ張る」という力が過剰になりすぎる(過度に安定を求める状態になる)と、

烏口突起の部分で肩甲骨を前方+下方に牽引し肩甲骨が前に傾いた状態を作ります。

 

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この肩甲骨が前に傾いた状態が慢性化して固まった状態が「巻き肩」です。

 

「普段から姿勢を良くしろ」ということではなく、

必要に応じて肩甲骨の位置を自由にズラせる能力は、

日常生活の至る所で身体操作を効率化させます。

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実際には小胸筋だけの働きではなく、

特に後傾方向に働く前鋸筋や僧帽筋の作用も欠かせません。

 

肩甲骨を自由にズラしてバランスをとる

という動作は、結果的に下肢への負担を軽減し荷重を分散させるために非常に重要な役割を担います。

その主要なコンダクターとして、小胸筋は身体の中心に近いところで常にセンサーを光らせていると私は考えています。

 

極論、

寝返りや起き上がり、坐位の自由度、呼吸のパターンなど・・・

あらゆる身体操作の下手な患者の殆どは、肩甲骨の前後傾によるバランス戦略がとれていない可能性があることを頭に入れて訓練を行ってみると面白いです。

 

※ちなみに先ほどの足首の損傷後の患者さんは、肩甲骨の訓練後かなり改善したらしい...

 

肩甲骨の運動を引き出すためには、これらの筋肉や胸郭を含めた骨関節への正確な触診力が必要です。

これらの内容を、次回参加して下さる皆さんと一緒にしっかり学べたら嬉しいです。

 

 

 

まとめ

 

専門的な情報が多くなってしまい説明しきれていない部分もありますが、

今回は小胸筋の機能について、

「適度な安定」「肩甲骨を引っ張る」ことの重要性について紹介しました。

 

若手のセラピストの皆さんは特に、診断名にこだわらず目の前の患者に対して

「動きが下手な理由」

をマクロな視点で診る習慣をつけることで、

リハビリテーションの価値=患者満足

につながります。

 

今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。