週末に本気を出す療法士

自分の目に映る「リハビリ難民」を西洋と東洋、双方向から診る療法士。セミナー寅丸塾を不定期で開催しながら、普段は家でも職場でも子どもに振り回さる会社員。

セラピストの仕事は運動学習である

今日もアクセスいただき本当にありがとうございます。

 

寅丸塾の管理人です。

 

冷え込んだり暖かくなったりと気候が落ち着かない中、気合いを入れてPCと向き合っています。

 

 

前回の記事では脳卒中患者さんの脳内で生じる問題について考えました。

 

toratezza0316.hatenablog.com

 

 

前回の復習

 

前回の記事を簡単にまとめると、

 

脳はシステムとして機能しているため、どこかが損傷すると全体のバランスが崩れ上手く機能しなくなる

 

機能解離というメカニズムにより脳は働くことよりも回復モードに入るため、無理矢理働かせることは強い矛盾がある

 

このような視点で、問題の本質に目を向けて訓練を提供することがセラピストの有るべき姿ではないか、

と述べてみました。

 

今回は、訓練を提供するにあたって、どのような点に注意を向けるかを考察していきます。

 

 

運動学習とは

 

 

何かを新しく覚えるとき、我々は大抵努力を要します。

 

例えば、

自動車教習所で初めて車の運転をしたとき、

体中に力が入っていて、冷や汗をかきながらハンドルやアクセル、クラッチトランスミッション

と、バタバタ操作した覚えがあります。(あれは今思い出してもヒドイ運転だった・・・)

 

が、

段々と手順が分かってくると力は抜けていき、

スムーズで余裕のある運転技術(※当時としては)が身についてきました。

 

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要するに、

最初は力を浪費しながらトライ&エラーを繰り返し、徐々に成熟していく訳ですね。

 

この一連のプロセスを「運動学習」と呼んでいます。

 

 

そして、

運動学習において非常に重要な脳の機能があります。

 

それは、

 

「感覚」

「予測」

 

です。

 

 

 

 

感覚と予測

 

 

運動学習という範疇で簡単に説明すると、

 

感覚=自分の身体に生じた変化を認識すること

 

予測=自分の身体が次にどう動くかを予期すること

 

です。

 

 

自動車運転のスキルで言うと(やたらとMT車用語が出てきますが)

 

アクセルやクラッチをどれくらい踏んだら車がどのような反応をするか

 

という情報は足から入ってくる感覚から養われるし、

 

ギアがどこに入っているか、次にどのギアに入れるか

という情報は正に次の行動の予測です。

 

 

 

このような視点でリハビリテーションを考えてみます。

 

 

多くの患者さんは動くために強い力に頼る傾向にあり、

そのような場面では「感覚」が入ってきにくい。

 

また、

力任せに動くために「次はこうしよう」という「予測」ができていないという傾向にあります。

 

 

もう少し具体例を挙げてみます。

 

テーブルの上のコップを取るためには手を伸ばす必要がありますが、

「手を伸ばす」という感覚はどういうものか?

 

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まず、

肩が適度に緊張して腕(上腕)が体幹から離れていきます。

 

次に、

肘がコップとの距離を調節して必要なだけ伸びていきます。

 

そして、

コップに近づくと手をコップの形に合うように広げていきます。

 

最後に、

手がコップにたどり着いたらコップが持てるだけの握力と肩の力で持ち上げる

 

 

というように、

コップを持つという一見シンプルな動きでも、

実はかなり細かい関節の使い分けを必要とします。

 

 

健常者であれば、

これを無意識に制御しており何の違和感もなく目的を達成することができます。

 

肩・肘・手…と、ちょっと意識してやってみると確かにそれぞれの場所の動きを感覚として感じることができるはずです。

 

 

 

しかし、

これが脳卒中患者さんや上肢の外傷後の患者さんになると、

「力を入れて動かすこと」に必死になり、

腕の感覚や動きの予測が立たない傾向にあります。

 

結果、

肩も肘も手も固まり、身体をのけぞらせながら手を引っ張り上げるような動きになってしまう

 

というのは、セラピストなら誰でも見たことのある光景ではないでしょうか。

 

 

したがって、

力任せになりやすい患者さんにセラピストがまず教えなければならないことは、

 

「肩を中心に腕が身体から離れる感覚」

「肘が伸びる感覚」

「手首がおきて親指と他の指が離れる感覚」

 

ではないでしょうか。

 

 

患者さんが「コップを持つ動きとはどういう感覚か」を理解すると、

がむしゃらに力を入れるということをせずに済みます。

 

そして、

肩/肘/手の中で、特に苦手な動きやコントロールしやすい動きに気付いてもらいます。

 

例えば、

指を伸ばす前には掌をコップに向ける必要があります。

 

しかし、

手首を曲げたまま、手の甲をコップに向けたまま指を伸ばす患者さんは意外と多く、

そのような場合は動きの順序が分かっていない=「予測が立たない」状態

と言えます。

 

 

そうやって、

患者さんが気付いていない動きの原則を学んでもらうことは根性でどうにかなるものではなく、

「効率よく動ける」という意味で非常に重要であると考えます。

 

 

もちろん、

動き方が分かったからといってすぐに解決するものではなく、

運転技術を磨くように根気よく「腕の感覚を磨く」というタスクを提供していかなければなりません。

 

 

しかし、

それは直接患者さんの身体に触れるセラピストにしかできない作業であり、患者さん自身の意欲や信頼関係次第で進歩していくものだと信じております。

 

 

まとめ

 

今回は運動学習について記事にしました。

 

・動きに重要な要素は「感覚」と「予測」である

・患者さんは力任せになりやすく、上記いずれの要素も欠落している可能性がある

・セラピストは患者さんに何を感じながら動くのが望ましいのかを明確に伝える必要がある

 

といった内容でした。

 

今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。