脳卒中の機能回復について考える
今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。
寅丸塾の管理人です。
色々と大変だった2020年も、もうすぐ終わろうとしていますね。
最近は、講習内容の関係で、病院時代の脳卒中患者さんを診ていた頃のことをよく思い出すようになりました。
ので、今日も脳卒中とリハビリについての考察です。
姿勢制御を優先した訓練とは
前回、脳卒中のリハビリをしていく上で、
誰の目にも明らかな手足の麻痺よりも、姿勢制御の問題を考えていく方が重要だ
という話をしました。
簡単に復習しますと・・・
手足を動かすと、それに伴って必ず重心が移動します。
その際、重心が身体の外へ移動して倒れてしまわないように、無意識に姿勢のバランスをとっていますが、
殆どの脳卒中患者さんは、この無意識的なバランス能力が低下します。(程度の差は様々ですが)
その代償として、手足に力を入れたり全身を固めて動こうとするわけですね。
こういった動きを繰り返すことで、最低限の動きは獲得できますが、あくまでも「とにかく動ければいい」という方法論です。
この、
「一応動けてはいるけどこんなはずじゃなかった」
という学習をしてしまわないために、
「姿勢制御」
という視点で患者さんを診ていくことがセラピストには求められます。
では、どのようにすれば姿勢制御を獲得することができるのか?
患者さんの多くは麻痺した手足を動かすことに努力を要しますが、
麻痺していない側の動きも万全ではありません。
なぜなら、
右でも左でも手足を上げるときには身体が倒れないようにバランスを取らなければならないため、
多くの患者さんは重心が変化する事を無意識に避ける傾向にあります。
そして、
「力を入れて身体がブレないように動く」
ことを最優先に学習していきます。
しかし、
患者さんにとっては麻痺している側の手足の方が重要度が高いため、
そのこと自体に疑問を抱く方は少なく、
「麻痺してない側は問題ない」
という結論に患者さんもセラピストも誤解しやすくなります。
このとき、セラピストは
「麻痺してない手足を動かすときに患者さんはどのような感覚を優先しているのか」
という視点を持つことが重要になります。
臨床的にとても多い具体例を挙げてみましょう。
患者さんは何もせず椅子に座っているときは両方のお尻に体重が乗っているが、
麻痺してない右手を上げた瞬間に右のお尻にかかっていた体重が抜けてしまい、麻痺側に崩れてしまう。
その時に、患者さんはとにかく力を入れることに精一杯で、体重が抜けたお尻のことには無頓着だ。
といった、
患者さん自身が感じている世界について共有していく努力が必要になります。
これを、
専門的な表現で内部観察といいます。
このような問題は、臨床では日常茶飯事です。
もちろん、我々健常者はいちいち手を上げたときのお尻の感覚なんて気にもしません。
なぜなら、子どもの頃から学習してきた姿勢制御システムが正常に働き、オートマチックにコントロールしているから。
しかし、脳卒中によって身体の構造に変化が生じた患者さんにおいては、一度学習したシステムがリセットされます。
つまり、
オートマではなくマニュアルモードで制御しなければならなくなる。
そこで、
「お尻が浮かないように意識しながら手を上げてみましょう」
「麻痺してない側の感覚の変化にしっかり目を向けながら、ゆっくりと動きましょう」
といったように、
動くときに何に気をつけるのかを明確化することで、
力任せになりがちな患者さんの注意や感覚を操作して、力を使わなくても済むような動きの学習を進めていきます。
この工程をより細かく訓練に組み込んでいくことが、身体を固めずに姿勢制御を高めて病理を制御する
ということに繋がっていきます。
これは、
例えば車の運転を練習するとき、
はじめはガチガチに力が入っている
→手順や視点、フットワークを覚える
→徐々に自分の感覚を磨く
→流れるような動きを獲得する
ということからも、
あるスキルの成熟には「感覚が非常に重要」であることが分かります。
我々セラピストは人間の動きについて専門的な知識を持ってはいますが、
・運動には様々な感覚が伴うこと
・多くの患者さんはそれが上手く整理出来ていない可能性があること
・外から見るだけでなく、患者さんの感じている世界について共有すること
これらの視点がしばしば欠落しがちになります。
あくまでも一つの例として紹介させてもらいましたが、
「頑張らせ過ぎている」
と感じた時には一旦立ち止まって、
目の前の患者さんがどのような感覚を優先して動いているのかをしっかり考えてみることが、患者さんの今後の生活の質を左右していくかもしれません。
これらは、
という理論の中では核となる考え方ですので、
「興味はあるけど認知~は難しい」
と思っている方、詳しく話を聞いてみたい、
という方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。
今日もここまでお読みいただき、ありがとうございました。
よいお年を。