目に見えない運動機能を高める
今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。
ブログのタイトル通り、大半のエネルギーを費やす週末の仕事も今年は終了し、年末年始のイベントが迫ってきました。
前回の記事では、
いわゆる重症心身障害者にどのような価値を提供するかについて論じてきました。
簡単にまとめると、
どのような患者でも問題には一次障害と二次障害があり、
一次障害は現代医学では対応できない身体構造や脳の器質的な問題
二次障害はそれらに付随して生じた機能障害でリハビリテーションで対応出来そうな問題
とざっくり分け、
二次障害をどのように解釈するかによってアプローチは大きく変わってくる。
特に身体構造に変形・奇形を抱える対象者は生まれながらに内臓が二次的に圧迫され、生命を維持するという本来のパフォーマンスが十分に発揮できない状態あるのではないか
という仮説を立てました。
内臓の運動機能とは
子どもの頃は自分の健康についてなど何も心配していなかった我々も、加齢と共にいつのまにか自分の「健康状態」が心配事ランキングの上位に急浮上していきます。
経験上、多くの日本人は「予防のために何かをしておく」ことは貯金くらいで(それも漠然とした将来の不安に備えるという理由)、具体的な目標を立てることが苦手です。
当然、健康管理も「できる」人と「やろうともしない」人の差が非常に大きい。
自由診療分野で仕事をしていると、CTも処方箋もなくクライアントが訴える情報だけを頼りに結果を出さねばならない。
慢性化した「腰痛」や「肩こり」などの問題を解釈する際、筋膜ラインのトラブルだけで完結することは殆どなく、ほぼ全ての患者に内臓機能の不調が見え隠れします。
ここで言う内臓の不調とは、例えば
高血圧症
→心臓を始め血管壁や毛細血管への慢性的な物理的ストレス
→リンパ系や腸管など免疫反応の衰え
→全身や局所の浮腫み
→内臓下垂
→腹膜や腸間膜が緊張し、表面の筋膜も引っ張る結果、「身体が重い」とか腰痛といった問題に発展するケースが事実存在する。
内臓も「平滑筋」という筋肉である以上、絶えず「運動」している訳です。
もっとも、ここで言う運動とは腕を曲げ伸ばしするような運動ではなく、
心臓が休むことなく血液を送り出す動き
や、
食べ物の消化吸収及び排泄物として肛門へ移動させるための蠕動運動
など、
それぞれの役割に応じた運動があります。
これを内臓の自動力と言います。
また、前回の記事にも少し紹介しましたが
身体が柔らかい人は、いわゆる筋骨格系の柔らかさと同様に内臓がある程度自由に移動してくれるためにお腹に圧がかかり過ぎず、柔軟な動きができるのです。
これを内臓の移動力と呼びます。
どちらが機能的に優れているかは言うまでもありませんね。
これらの目に見えない運動機能が、身体的なパフォーマンスを左右することは想像に難くないはずでしょう。
ちなみに、慢性的に問題を抱えているクライアントで「身体は柔らかいんです」なんて人を今まで僕は診たことがありません。
内臓の運動機能を高めるには
さて、何となく内臓の重要性が分かったところで、ではどうすれば内臓の運動機能は高まるのか?
という視点で語っていきます。
内臓の運動を語る上で、「横隔膜」の働きを避けて通ることはできません。
これまで何度か触れてきましたが、
ヒトの呼吸は横隔膜の上下運動で成り立っています。
しかし、よく考えてみましょう。
横隔膜が上下に動くということは、その上と下にある組織も一緒に移動しているということになります。
横隔膜の上には、肺と心臓があります。
横隔膜の下には、肝臓と胃があります。
人は1日に約2万回呼吸をしますが、これすなわち2万回内臓を上下に動かしているということです。
ただ、現代社会において、日常的に呼吸が意識できる人は自分と向き合う能力が高い人だと感じます。
クライアントの多くは、
常に肩で息をしている
前屈みで身体を固めている
身体を動かす=手と足を振り回すことと勘違いしている
自分の身体と向き合うことに嫌悪している
etc・・・
このような方は、ほぼ例外なく横隔膜の動きが乏しいです。
従って、内臓の運動機能も非常に乏しく、触診しただけでも肝臓や腎臓に痛みが生じるほど機能が衰えています。
クライアントとして治療を提供するときは外から動きを加えていきますが、自分の身体を管理するのは当然自分の課題です。
深呼吸=腹式呼吸ができるところまでガイドさせていただき、横隔膜と内臓の協調的な運動を学習させます。
例えば、
肝臓の運動を高めるためには右手を上げ身体を左に倒した状態で数回、
腎臓の運動を高めるためには上半身だけを起こした状態で数回
深呼吸をしてもらうといった具合です。
···しかし、これを重症心身障害者に対して実施するとなると話が変わってきます。
横隔膜自体が生まれながらに機能せず気管切開など外科的な手段や管理が必要な人には、そもそも我々の感覚でいう運動は困難を極めるため、よりダイレクトな内臓アプローチが求められます。
限られた空間内で内臓同士が相互に干渉せず、隣接する組織が上手く圧力を逃がす動きは内臓の可動力と呼びます。
もっとも、これを実現させるためにはここで語ることのできないセラピスト側のスキルが必要です。
自分では何もできずコミュニケーションもとれない対象者に、
「何をさせるか」ではなく「どのようなコンディションにさせるか」を推論し価値を提供することが、我々には求められます。
ここで仕事をするようになって、よりシビアに自分の技術を磨けるようになったことはとてもプラスに感じてます。
来年も、私を頼ってくれる仲間と一緒にリハビリテーションの可能性を追いかけていきたいです。
それでは、今日もここまでお読みいただき本当にありがとうございました。